ユーテク岩田屋ソラリア玉屋ダイエー三越コア寿屋…平成の流通戦争史を「あの人」とたどります

福間 慎一

 福岡市・天神の西日本新聞会館11階。私がこの原稿を書いている編集局は、ここにある。

 その空間には、デスクたちが打ち合わせる声や、大きなコピー機から紙面のゲラ刷りがはき出される音が響いている。そして空腹をこらえきれなかったのだろうか、記者がお湯を入れたカップ麺の香りが、一瞬で主役に躍り出る。

 そのわずか10メートルほど下では「別世界」が広がっている。

 漆黒のスーツ、つやがまぶしいカバン、鮮やかなマフラー。そして「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる、これまた折り目正しいスーツ姿の男女。軽やかな音楽が、磨き上げられた床の上を流れていく。福岡・天神を代表する商業施設の一つ、大丸福岡天神店だ。

 ちなみに編集局の窓からは福岡三越が見える。暖色系の照明の中、家族連れが楽しげにエスカレーターを上っている。非常階段がある北側の窓からは、金色に輝くイムズが見える。今の天神の街並みは、多くが平成年代に作り上げられた。

 30年前の1989年、平成の始まりは「第2次天神流通戦争」と言われる、商業施設同士の激しい競争の新たな幕開けでもあった。

 この年、「ユーテクプラザ天神」が3月11日にオープン、その13日後にソラリアプラザがオープン、そしてその19日後にイムズが開業した。ユーテク?なにそれ?という人もいるかもしれない。今の天神ロフトである。

 バブル崩壊後も天神への商業集積は続いた。1996年9月には岩田屋Z-SIDE(現在の岩田屋本館)が開館。翌年3月にはエルガーラ、そして10月には福岡三越が続く。「第3次流通戦争」で、天神の売場総面積は不況下にもかかわらず従来の2.7倍に膨張した。

 ちなみにキャナルシティ博多も96年オープン。そして3年後の99年にはソラリアステージや博多リバレインが“だめ押し”のように開業。商業集積がピークを迎えた天神界隈だが、消耗戦の影で低迷がすぐそこまで忍び寄っていた。

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 2018年8月の終わり、天神の親不孝通りにある天神劇場は超満員だった。舞台では、先述の大丸や岩田屋、ソラリアプラザが“躍動”していた。上演されていたのは、福岡の建物や乗り物たちの物語をかぶりものを通して描く劇団「ギンギラ太陽’s」の最新作だった。

 大規模再開発「天神ビッグバン」に伴い、解体される運命にうちひしがれる天神コア。その傍らで西日本鉄道の前身の一つである九州電灯鉄道の本社ビルがコアをなぐさめ、励ましていた。

 戦前、時計台を構えた九鉄本社ビル。天神最初のシンボルでもあったが、福岡大空襲で焼失してしまった。その九鉄ビルの言葉は、そのかぶりのものをかぶった劇団主催の大塚ムネトさん(53)自身の思いが乗り移ったようだった。

時計台「そうじゃったのか。うん、われらは、時代と共に変わっていく」
天神コア「…はい」
時計台「しかし、変わらないモノもある」
天神コア    「変わらないもの?」
時計台「うむ、『天神は1つ』という強い気持ちじゃ。それぞれの店が存分に力を発揮した上で、一丸となって天神を盛り上げる気持ちじゃ」

 1997年に旗揚げした劇団が最初に描いたのは、第2次天神流通戦争だった。道路を占拠するヒール「西鉄バス軍団」、「あんたの照り返しがまぶしいのよ」と天神コアに文句を言うパルコ…、100%福岡のステージは、地道な取材に基づいている。

 そして、一見ブラックなネタにも、その底には深い地元愛がある。

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 「面白いじゃないですか、それ!」。大塚さんは相づちを打ってくれた。

 「平成ももうすぐ終わりますし、天神、いや福岡の街がどう変わっていったのかをおさらいする企画を、ギンギラさんとqBizでやってみたいと思いまして…」という私の相談に応じていただいたのだ。

 西鉄天神大牟田線の沿線、福岡県小郡市出身の大塚さんにとって、天神は幼い頃から「電車に乗って家族で来るあこがれの場所」だった。そのあこがれの場所で、大塚さんはウレタンでつくったかぶり物を通して「モノ語り」を生み出している。

 自らが作る500以上のかぶりものは細部まで忠実。例えばソラリアプラザは、2010年以降に進んだ建物のリニューアル後の姿に合わせて、かぶりものも“改装”したほどだ。

 2018年は終わるが、「平成」はまだ、最後の一年が“第三コーナー”を回っている最中だ。2019年、qBizは大塚さんと平成の流通戦争史をひもといていきたいと思う。

 話は平成年代にとどまらない。この茶色い大丸が天神に進出してきた1975年ごろの「第1次流通戦争や、さらなる過去にも及ぶだろう。

 あらためて「天神流通戦争史」を一枚にまとめてみた。これほど多くの商業施設が、このコンパクトな福岡都心でしのぎを削ってきたことに、あらためて驚きを禁じ得ない。そしてその戦いはまだまだ続きながら、福岡の街にエネルギーを与えるだろう。

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