静かに30周年を迎えた「荒津大橋」 必然が生んだ、福岡のランドマーク

 福岡では来年、さまざまな「30周年」の節目ラッシュだ。1989年の「アジア太平洋博覧会」に合わせて建設された福岡タワーがその代表だろう。ソラリアプラザもイムズも、ついでに言えばプロ球団のダイエーホークス(当時)も、この年にやってきた。

 その前年、バブルまっただ中の88年に完成し、先日、10月31日に供用開始から丸30年を迎えたのが、福岡都市高速道路にかかる「荒津大橋」だ。

 商業施設や鉄道路線、はたまたスポーツチームなら「30周年」とくれば節目を振り返るさまざまなイベントや報道が彩りを添えることが多い。しかし道路橋というインフラである荒津大橋に関してはそんな動きはなく、誕生日の10月31日は実に静かに過ぎていった。

 今や福岡の街を象徴するような爽快感を演出するランドマークでありながら、架かっていて当たり前の“空気”のような存在。今回はこの橋にスポットを当てて、個人的にお祝いする。

足もとにも頭上にも制約

 福岡市中央区那の津と同区荒津を結ぶ全長345メートルの荒津大橋。その形式は「 3 径間連続鋼箱桁斜張橋(さんけいかんれんぞくこうはこげたしゃちょうきょう)」という。 橋脚と橋脚の間が三つあり 、そこに箱の形をした 鋼製 の橋(道路)が連なっている斜張橋」という意味だ。

 塔から出たケーブルで道路をつって支える斜張橋は景観に彩りを添えることから、長崎市の女神大橋など国内にも多い。荒津大橋は九州初の本格的な斜張橋で、翌年に完成した横浜市のベイブリッジは荒津大橋の弟、ともいえる。

 海沿いの景色にマッチする爽快な橋だが、福岡北九州道路公社(福岡市東区)によると、地形や地質、気象など全ての橋で考慮すべき条件に加えて、建設にはさまざまなハードルがあったという。

 この橋が架かっているのは、博多漁港の入り口にあたる部分。港には造船所(福岡造船)もあり、建設にあたり求められたのは、次の条件だった。

▽海上保安庁が定めた航路幅100メートル 
▽造船所で建設される最大船舶が航行できる余裕がある桁下の高さ39メートル
▽航空法に基づく高さ制限で、構造物の最高地点を105メートル以内に

 足元も頭上も制約を受けた橋。実は当初は鉄道橋によく用いられるトラス橋も検討されていた。
 しかし、最終的に選ばれたのは斜張橋だった。「『トラス橋ではドライバーに圧迫感を与える』という懸念から、スレンダーな斜張橋が選ばれたということです」。公社保全管理課の中野慶彦さんが教えてくれた。

 地元住民の方々の理解も得ながら工事は進んだ。そうして完成した橋は、主塔から天神側で100メートル余りの航路幅を確保。車やバスは空を飛ぶような感覚も味わいながら海上40メートルの地点を走り抜け、その脇には100メートルの高さに空色の主塔がすっと伸びている。

 荒津大橋がこの形になったのは、ある意味、必然的なものだった。

通行量は3倍、吹き付ける潮風

 特別な許可をいただき、公社の職員と荒津大橋に上った。行き交う車の風圧以上に、海から強い風がたたきつけてくる。当然ながらこの風は、鋼の“天敵”ともいえる塩分がしっかり含まれている。

 人間も30歳をすぎれば20代のような無茶ができなくなる。しかし荒津大橋は、開通当時1日約6万台だった通行量が、30年をへた今は3倍超の約19万台にまで増えた。しかも、橋は海の上。陸上の橋のように、高所作業車は使えない。

 そんな厳しい環境の中、公社は道路法が2016年に道路橋の定期点検(5年に1度)を義務づける前から、独自に要領を定めて5年に1度の点検を行ってきた。ケーブルは内部の状況まで把握できるカメラ付きの自走点検装置を使用。主塔はロープを使って、作業員が目視している。

 それでも、絶え間なく吹き付ける潮風の影響で、鋼製の構造物は徐々にさびが発生している。「そのまま放置しておくと鋼の肉厚が薄くなってしまうので、その前に塗装の塗り替えをするよう務めています」と同課の青野守さん。

 2007年には、主塔も塗り替えられている。腐食の早期発見と早期の手当で長寿命化を図る。これも私たち人間と同じだ。

真下に広がるのどかな光景

 橋の真下は、那の津3丁目の岸壁がとんがったように突き出している。男性が数人、釣り糸を垂らしていた。

 昼下がり、タクシー運転手の徳永利夫さん(76)=福岡市博多区=はさびき釣りを楽しんでいた。12月中旬まで、アジが釣れるらしい。

 「小さいのは南蛮漬けにするっちゃけど、今頃のはもう手のひらぐらい太かね。それは開いて天ぷらにするとよ」。アジといえばフライと思っていたが、「脂がよう乗っとってね、天ぷらもおいしいとよ」。

 このあたりで釣りをしてもう25年になる。エンジン音がうなりを上げる橋の上に対して、こちらは静かな波の音。そして対岸の造船所から時折、コーンコーンと鋼材の大きな音がひびいてくる。

 博多漁港に出入りする船が、思ったよりも間近を横切ると、重油のにおいが漂い、その後で引き波が何度も押し寄せてくる。

 徳永さんはタクシー運転手。この日は休み。仕事で荒津大橋を通る機会は「ここ何年か増えてきたよ」と言う。「空港からヒルトン(福岡シーホークホテル)まで、外国人を乗せるんよ。わたしゃ国内線(で待機することが多い)やけん、商社勤めかなんかやろうか、欧米のビジネスマンが多いね」。

 隣で釣りをしていた別の男性の釣りざおがしなった。「クロ(メジナ)ですね」。この男性は退職後、横浜から移住してきたという。「えさの岩デコ(イシゴカイ)が30グラムで360円。これで1日遊べる。金のかからん趣味ですよ」と笑う。

 釣った魚は必ず長さを測り、15センチに満たなければリリースすることにしている。手作りのはかりに乗せられた魚は16センチほど。煮付けにしてもおいしいという。

 都市高速道路で双方向の環状線を持つのは首都高速道と福岡都市高速道だけ。その大動脈のシンボルでもある荒津大橋を、私たちは仕事で慌ただしく通ったり、「きれいやね」と眺めたり、その下でのんびり時間を過ごしたりしている。

 都市と海が織りなす“福岡的”な雰囲気。荒津大橋には、それが詰め込まれている気がする。

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