今も昔もテストマーケティングの“聖地” 好条件そろう福岡、あの大型倉庫店も紙おむつも

 マンションと一戸建てが並ぶ福岡市中央区白金。オリジナルの文具や雑貨で知られる「ハイタイドストア」のカフェで、目の覚めるような青色のソーダがひそかに人気を集めている。

 この青色はサプリメントの素材などで売り出す藻類「スピルリナ」から取れる天然色素。健康食品販売会社「DICライフテック」(東京)が、スピルリナの普及のために、インスタ映えする青色色素を福岡市内の飲食店に提供。ハイタイドで7月にインスタグラムフォロワー向けの「裏メニュー」として採用されたほか、5店舗ほどで使われている。

 「評判は上々」とDICライフテックマーケティング部の宮里美保子マネジャー。「今は関心や志向の変化のスピードが早く、ケーススタディでは間に合わない。えいや、で始めても、反応してくれる福岡は『感覚』を試すことができる街」。「この青色を、スピルリナがもっと幅広い層に使われるきっかけにしたい」ともくろむ。

福岡は、場所や規模を絞って試験的に商品やサービスを販売、提供するテストマーケティングが静岡や広島などと並んで活発に行わる都市だと言われる。

 今夏だけでも、英国に本社があるたばこ会社の日本法人が、香りの蒸気を楽しむ「ベープ」という新しいタイプの嗜好品の対面販売を福岡県内の一部コンビニで先行スタート。吉本興業は、芸人がキャストを務める新しいお化け屋敷「おもろおばけ屋敷」を福岡で全国初開催した。

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 福岡市がテストマーケティングに向いている理由を考えるにあたって、グロービス経営大学院のマーケティング・経営戦略領域教員の佐野友昭さんに、ヒントを聞いた。「もし自分が、何かの新商品を企画している立場だったら」――。そんな問いかけをしてもらいながら導いたのが、次の要素だ。

▽街の「規模」が大きすぎず、小さすぎないか
▽その街がほどよい「密度」でまとまっているか
▽新しいものに良く反応してくれるなど「ターゲティング」がしやすいか
▽テストの実施エリア以外への「波及効果」が狙えるか
▽行政のサポートなどの「実施しやすさ」があるか

 福岡市の人口は155万人。全国の政令市では5番目に大きい。一方で、面積は20市中13位。しかも博多駅を中心に空港、博多港、中心部の天神がいずれも半径2.5キロメートルに収まる。

 10、20代の若者の比率は基も高い22.05%(2015年)。単純に「若い人=新しいもの好き」というわけではないが、福岡の人々の「新しいもの好き」は自他ともに認めるところだ。また、博多駅と福岡空港、博多港は国内外に開かれた西日本屈指の玄関口だ。

 さらに、近年「創業・起業の街」を掲げる福岡市は、IoTなど最先端技術を活用した商品やサービスの実証実験をサポート。7月には、国家戦略特区の規制緩和を活用した薬剤師によるオンライン服薬指導が全国に先駆けて始まった。

 福岡で行われた主なテストマーケティングの例と、企業トップが語った「選定理由」を本紙報道から振り返る(いずれも社名や肩書は当時)。

▽フリマアプリを運営するメルカリは、自転車シェアサービス「メルチャリ」の全国第1弾を今年2月、福岡市でスタート。小泉文明社長は「都市が小さすぎず大きすぎず、地形が平らで観光客も多い」。

▽JTは2016年、火を使わない蒸気たばこ「プルームテック」を全国に先駆けて福岡市で店頭発売。佐々木治道常務執行役員は「新技術に関心を持つ若い人が多く、テスト市場として最適」。

▽女性誌「ELLE」の世界観をモチーフにした「エル・カフェ」は2011年、福岡市の博多阪急に世界初出店。アシェット婦人画報社のイヴ・ブゴン社長は「ファッションセンスが良く、アジアと近い」。

▽米国発祥の流通大手のコストコは1999年、日本1号店を福岡市に隣接する久山町に出店。マイク・シネガル社長は「若者が多く、収入の水準も比較的高い。わが社のような新しいコンセプトを受け入れやすい」。

▽報道からではないが「おまけ」。実はあの紙おむつ「パンパース」も1977〜 78年、福岡市より少し枠を広げた福岡県と佐賀県で試験販売をしている。P&G(神戸市)のベビーケア担当広報は「資料が残っていないので確かなことは言えない」とした上で、「人口規模や、年齢構成などの面から、試験販売にふさわしかったと判断したと考えられる」。

 どれも、先述の「条件」に当てはまる。

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 福岡大名誉教授の阿部真也さん(86)に聞いた。福岡市の基本計画の作成や、まちづくりの提言などに携わり、「街に出る経済学者」と教え子や学者仲間に呼ばれた流通経済学の第一人者だ。

 「昔の福岡は天神一極集中だったが、今は博多(駅周辺)が成長して、新たに六本松が再開発された。これからは箱崎も変わる。市全体としての成長の一方で、都市構造が多極化しつつあるのも、今の特徴。福岡は『主役が変わり続ける街』ともいえる」

 阿部さんはこう続けた。「市場調査は競争相手より優位に立つためにやる。成長が止まった街ではできない。そして忘れてはいけないのが福岡市の産業に占める第3次産業の多さ。これが街のスピード感に直結している」

 また、福岡市の市場調査会社「ジーコム」調査研究部の坂西美紀・担当部長は「近年、福岡のモニターを使ったテストマーケティングの件数はさらに増えている」と明かす。「街として勢いのある福岡に乗っかる形でさまざまな企業がテストをしに来るという側面はあるかもしれない」

 九州最大級のみやげ物の品揃えを誇るJR博多駅の商業施設「マイング」が買い物客の投票で実施する「おみやげ決定戦」。過去4回の結果を振り返ると、実に多くの商品が入れ代わり立ち代わり、順位を激しく競っている。名物一つとっても、絶対的な存在がないのだ。

 「定番がない」(あるいは「『定番』がたくさんある」と言うべきか)街には、鴻臚館に始まる異文化との交流や、商人の街としての歴史が流れる。福岡には新参者に興味津々になり、声をかけて手に取らずにはいられない遺伝子のようなものがあるのかもしれない。

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