人生はドラクエ? 勇者でなくてもゲームは楽しめる 福岡在住の“おうさま”に聞いた

 暑い。食欲は出ないし、駅まで歩くのも一苦労だ。

 うまく進まない仕事がある。必要なデータもコメントも取れていない。締め切りだけがどんどん迫る。

 夏休みは子どもが家にいるから、いろいろ計画したり、相手をしたり大変だ。もちろん子どもはかわいいけど、こっちの気力と体力、そして財布の中身が足りない…。

 と、こんな感じになっている人はいませんか。正直なところ、自分もたまにこうなる。

 自分の子ども時代の夏休みは、一日中ファミコン(ファミリーコンピューター)に興じてしまうことがあった。とりわけ、前回のコラムで少し触れたドラゴンクエスト。敵を倒してレベルを上げ、より強い装備を手に入れ、エンディングを目指す…。宿題そっちのけで熱中した。

 30年あまりが経過して中年になった今、こういう本に出会った。「人生ドラクエ化マニュアル」。3年前に出た本だが、その帯に、はっとさせられる。

<定価5500円のTVゲームに、面白さで負ける人生を送って、どうする!>。ちなみに5500円は、ドラクエⅠのソフトの価格だ。

 著者は、ドラクエを制作したエニックス(当時)の元社員という、JUNZO氏。現在、なんと福岡市に住んでいるという。メールを送り、「私もドラクエが好きで」と伝えると、返信にはこうあった。

 「冒険仲間ですね!」。ぼ、ぼうけんなかま?

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 本名、年齢は非公表のJUNZO氏。天神でお目にかかると、別に「くさりかたびら」や「みかがみのたて」のコスプレをしているわけではなく、普通に「ぬののふく」を着た落ち着いた雰囲気の方だった。

 父親は「はがねのつるぎ」の素材を作る(?)新日鉄八幡製鉄所(現新日鉄住金)で働いていた。北九州市八幡西区穴生の社宅で育ち、「当然のように会社員になるだろう」と思っていた。進学校だった高校から大学に進学。元々ゲーム好きで、1980年代中ごろ、新卒でコナミに入社し、その後エニックスに転職した。

 そのエニックスで、入社直後に上司から出された課題が、JUNZO氏の一生を決めることになる。「ゲームとは何か、をレポートにまとめて」

 最初はあれこれ考えて、もっともらしい説明を書いてみた。でも上司の表情は冴えない。悩んだJUNZO氏、さらに考え抜く中で、一つの結論が「降りてきた」。

 <ゲームとは、「目的」を達成するための「ルール」にのっとった「敵」との楽しい戦い>

 JUNZO氏は気付いた。目的とルールと敵。この三つがあれば、それはゲームだ。つまりリアルの人生そのものも、ゲームじゃないか。ゲームを作っている場合じゃない。自分がゲームを楽しまないと――。

 「やりたいことを全部やろう」とエニックスを退社して、個人事業主に。まず芸能人などのテレビ、イベント出演情報をまとめた情報誌を出版(のちにウェブサービス版も)し、その後、音声認識機能を搭載した時計内蔵の電子ペットを開発した。どれもビジネスの「ルール」にのっとり、「敵」(芸能プロダクションやメーカーなど)とのやりとりを楽しみ、発行や発売という「目的」を達成する、そんなゲーム感覚で取り組んだ。

 そんな中で起きたのが、2011年の東日本大震災と福島第1原発の事故。発生から半年後、福岡市に移住し、ここで長年あたためていた「人生ドラクエ化」を本にまとめた。


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 JUNZO氏は今夏、3年前のドラクエ化マニュアルを、具体的な事例に落とし込んで発展させた新作「王様からの求人票」を著した。


 ドラクエ的な視点で84の職業の「なれる」年齢や報酬の相場、そして目指して実現するまで、そして実現した後の展開までをすごろく形式でまとめている。ボードゲームの名作、人生ゲーム(タカラトミー)をほうふつとさせる。

 「良い大学を出て良い会社に行け、と言われて育つかもしれないが、学歴関係なく稼げる仕事、楽しめる仕事はいくらでもある、ということを伝えたい」。今回は“おうさま”としてさまざまな仕事を紹介するJUNZO氏は、そう力を込める。

 本で印象に残るのが、各職業を解説する章の最初のページだ。すべてを網羅して「報酬:0円〜9000億円 年齢:0〜98歳」と表した。誰でも、いつでも、どんなゲームにも参加できる――。そう背中を押してくるようだ。

 「ゆうしゃ」「せんし」「ぶどうか」「そうりょ」ではなくても、私たちは「銀行員」「薬剤師」「公務員」「パティシエ」といった職業で、ゲームに臨んでいる。レベルアップしたり、新しい呪文(能力)を覚えたり、転職したりする。ゴールド(お金)をためる、世界制覇(社長に就任)する、モンスター退治(社会の課題を解決)する――目的もさまざまだ。新聞記者もそうだ。手ごわい取材ほど、経験値が多く手に入る。

 酷暑も、仕上がらない原稿も、エンドレスな子どもの相手も、JUNZO氏に言わせればルール・目的・敵がそろったゲーム。「人生=ゲーム」理論のポイントは、繰り広げられる戦いを「楽しむ」ことだ。考え方一つで、毎日ゲームざんまいだ。

 ドラクエⅠの名せりふを思う。敵との戦いに敗れ、HP(ヒットポイント)が0になった勇者は、おうさまに叱咤(しった)される。「しんでしまうとは なにごとだ!」

 そして、おうさまはこう続ける。

 「しかたのない やつだな。おまえに もう いちど きかいを あたえよう!」

 言うまでもなく、ゲームの「し」は本当の「死」ではない。ゲームに飽きさえしなければ何度でも挑戦できる。裏を返して人生が1本の大作ゲームだとすれば、その中で挑戦は何度だってできる、ということになる。

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