福岡名物、夏の夜の「惑星直列」 福ビル最後のビアガーデンに思う

 福岡市のど真ん中、天神交差点。その南東側の角にある福岡ビルは1961年に建てられた。その翌年に営業を開始したのが、屋上のビアガーデンだ。一体の再開発計画に合わせて、西日本鉄道が来年3月末をめどに、テナント側に移転を求める中、福ビルの「しばふビアガーデン」も今年が最後の営業となっている。

 今後、周辺との一体開発が視野に入っている福岡ビル。福岡都心の街づくりの中心的存在の動向を探る取材の一環として(すみません冗談です)、同僚たちと出かけた。

 金曜日の夜とあって、会場はほぼ満席だった。実はビアガーデンを利用することは少なく、今回も数年ぶりだったのだが、驚くほどに「おじさん」が少ない。若者グループが大半で、外国人観光客とおぼしき姿もちらほら。

 福ビルの屋上に来たのは、そこから見える風景を目に焼き付けるためでもあった。ビアガーデンの高さは39.4メートル。ご存じの通り、福岡空港から4―5キロに位置する天神界隈は、航空法による高さ制限の対象エリア。月日を重ねたビルも多いため、政令指定都市の都心部としては比較的低い建物が並んでいる。

 冒頭でふれた再開発「天神ビッグバン」では、国家戦略特区の特例としてこの高さ制限が緩和され、福ビルから少し離れた旧大名小では、高さ115メートルのホテルを含んだ施設が構想されている。見晴らしの良い天神を眺められる時間も、もうそんなに長くない。

 屋上からの眺望は、やはり美しかった。もちろん柵や金網があるので全てを見ることはできないが、西の方には福岡パルコとソラリアステージの向こうに、ファッションビル「VIORO」の上部や、約400メートル離れたアミューズメント施設「ラウンドワン」の屋上コートも見える。そして何より、空が大きい。福岡の街の開放的な雰囲気は、この都心がつくる景観のおかげでもあるのではないか、そんなことも考えた。

 隣には、天神コア屋上の巨大なシンボルマーク。そのふもとのビアテラスでくつろぐ人びとも見える。こちらは福ビルよりもさらに低い、29.8メートルの高さに位置する。

 実は渡辺通りの東側は300メートルほどの間に並ぶ6軒のビルのうち、西日本新聞会館▽イムズ▽天神コア▽福岡ビル――の4軒が、屋上にビアガーデンを構える。さながら宇宙に浮かぶ「惑星直列」だ。

 この中で最も新しいのは、2009年に始まったイムズのビアガーデン。過去をひもとけば、渡辺通りを挟んだ天神ビルの屋上では、1960年から2009年まで営業していた。最古参は1954年の竣工翌年にビアガーデンを始めた西日本ビル(西ビル)だった。徒歩10分ほどの範囲内にこんなに多くの「惑星」が光を放っていたのだ。

 キリンビールによると、国内の屋上ビアガーデンの起源は1953年、大阪・梅田の第一生命ビルとされているが、その前年の52年の毎日新聞には、銀座の屋上ビアホールの写真とともに、「ルーフガーデン」という言葉を使って記事が掲載されているという。そのわずか2、3年後に福岡の都心でも同様の風景が現れたというのは感慨深い。

 近年は「ビアテラス」と銘打って、欧風の装飾をほどこしたり、カクテルを提供したりと、おしゃれなスタイルも増えている屋上ビアガーデン。だが、福ビルではビール会社の提灯が、これまたずらっと「惑星直列」し、樹脂製のテーブルと椅子が並ぶ、昔ながらの正統派スタイルだ。

 ビール製造会社にとって、客席数が多いビアガーデンで自社の商品を取り扱ってもらう意味は大きい。キリンビール広報によると、「売り上げだけではなくファン獲得の面でも重要」で、今も各社が激しくシェア争いを繰り広げている。福ビルの提灯を見ると、キリンだけではなく、アサヒビールやサントリーの提灯もあり、群雄割拠の様相だ。この提灯がお祭り的な非日常感をかき立て、ビールをいっそう進ませる。

 数十分おきに開かれるステージライブの音量に負けじと大きくなる各テーブルの会話。老若男女が日ごろの「いろいろ」を、提灯越しの広い空に解き放つ――。

 そうして56年間の歴史を刻んできた福ビルのビアガーデンは、今年で終わる。隣の天神コアも、近い将来に建て変わる。新しい街への期待の傍ら、夏の夜の「惑星直列」が見られなくなると思うと、一抹の寂しさがこみあげる。

 つまみの揚げ物を料理台に取りに行く途中、若者たちの会話が耳に入った。「ビアガーデン、マジで『エモい』ね」。

 そうそう、その通り。夏の夜空の下、屋上で過ごすひとときは、とにかくエモーショナル(情緒的)なのだ。

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