意外に少ない?「九州」ブランド パンケーキと廃校から見えた地元の可能性 MUKASA-HUB・村岡浩司さん

福間 慎一

 宮崎市中心部から車で20分の同市高岡町。山あいの廃校が昨年、宮崎県内最大規模の創業支援施設に生まれ変わった。かつての小学校名から取った施設の名前は「MUKASA-HUB(ムカサハブ)」。その代表で、海外でも人気の商品「九州パンケーキ」を手掛ける「一平」(同市)社長の村岡浩司さん(48)が、初めて本を書いた。タイトルは「九州バカ」。刺激的なタイトルに込めたのは、地元九州が持つ、限りない可能性だという。

九州ブランド、強いのに…

 ―赤米やサトウキビ、もちきびなど九州各県と沖縄の素材のみで作られた「九州パンケーキ」は2012年の発売後すぐに人気に火が付き、14年には台湾に初の海外店舗を展開。海外のカフェ3店舗で提供し、米国ではパンケーキ粉も販売している。

 (村岡さん)「九州」というブランドは強いのに、その名前がついた食べ物はほとんどありません。九州の特長は「多様性」。でもそれは、対外的なアピールを考えるともろ刃の剣でもあります。北海道と比較するとよく分かる。「北海道」という地名の海外での知名度は高い。インスタグラムで検索すると、よく分かります。

 ―インスタグラムで「#hokkaido」は305万件、一方の「#kyushu(#kyusyu)」は31万件。世界中の人が使うSNSでは、北海道の方が圧倒的に高い知名度であることがうかがえる。

 (村岡)雪、酪農といった北海道のブランドは確立しています。一方、九州はまだまだ。だから無理やり九州を冠したパンケーキを作りました。各地のいいものを組み合わせて「九州」を押し出せば、ブランド化ができる。例えばかんきつ類。九州には晩白柚もポンカンもタンカンもある。全部混ぜて「九州オレンジジュース」、それだけで間違いなくいい味になります。和牛だって、宮崎牛も佐賀牛を全部「九州和牛」とすれば海外からの見え方は違います。「九州」は個性を消すのではなく、逆にそれぞれの地域を際立たせることができる。

廃校は各地共通の財産

 ―「一平」は、宮崎市内の旧穆佐小学校の土地と建物を取得して改装、昨年5月、自社ビルと創業支援施設を兼ねた「MUKASA−HUB」としてオープンさせた。投資は約1億2千万円に上ったという。現在、自社を含めて計14社が入居している。

 (村岡)事業規模からすると、街中のビルも買える金額。すごく大きな投資でした。コワーキングスペースや会議室など、全体の7割が共用スペース。「コミュニティ」のあり方を問いたかったからです。今、投資に見合っているかというと、家賃だけでは黒字化できていない。でも、自分の会社の成長を担保できれば、どうにでもなります。

 ―村岡さんは、宮崎発の定番メニュー「レタス巻き」の発祥の店とされる「一平寿司」の2代目。父・正二さん(故人)が、知人に「もっと栄養を付けろ」と野菜を巻き込んだ寿司を振る舞ったのが最初だという。

 (村岡)既存の概念にとらわれずに新しいものを生み出した父のレタス巻きが、この施設の原点と言えるかもしれません。ここにはいろんなキーワードがある。コミュニティ、ベンチャー、遊休ストックの再配分…。これまで商店街活性化などに取り組んできましたが、一番大事なのは「プレイヤー」。人を育てる場所をつくらないといけないと思っています。

 ―MUKASA−HUBは宮崎県内の4自治体と起業家の交流や地域活性化に関する連携協定を締結。今年4月には同じく廃校から創業支援施設に生まれ変わった「いいかねパレット」(福岡県田川市)と、福岡地域戦略推進協議会(福岡市)と共同で、廃校を生かした地元の活性化を探る「九州廃校サミット」を初めて開いた。

 (村岡)みんなが通った小学校という場所にはエモーション(感情)があり、コミュニティの起点になる可能性があります。九州には約500の廃校があるが、活用されているのはまだ100程度。廃校サミットは今後も続けます。廃校がネットワークをつくれば、それは自治体の壁を越えて、九州を一つにつなぐ場所になるはずです。

福岡は九州の“首都” 

 ―自治体の壁――。統一したブランドイメージを持つ北海道とは異なり、九州には7つの県があり、233の市町村がある

 (村岡)壁は、自治体の境界線です。いい例が観光。それぞれの街にパンフレットがあり、職員が数人ずつついる。外国人観光客は増えているのに、効果的なアプローチができないまま競い合う現状があります。地域活性化にしても、「九州パンケーキ」では補助金が出ませんが、「宮崎パンケーキ」なら宮崎市から補助金が出るかもしれない。補助金に頼ろうとすればするほど、自治体の枠組みに縛られる現状がある。

 ―人口減少などで地域の活気は徐々に衰えつつある。九州も例外ではない。そんな中で大切なのが九州を「国」ととらえる視点で、その「首都」が福岡市だ、と村岡さんは考える。

 (村岡)税収が減れば施設の維持管理や補助金拠出が難しくなる。改修も撤去もできない立ち入り禁止のアーケードを抱えた街ができる可能性さえあります。一つの自治体だけで課題を解決できない時代に、九州を一つの「国」ととらえる視点が生きる。九州の人って福岡市を「九州の首都」と見ているところがありますよね。その感覚を福岡の人に持ってほしい。例えば、福岡市が外国人客に関する目標を「誘客増」から「送客増」にすれば、九州の各地も福岡も潤う。インスタで「#fukuoka」は北海道を上回る320万件。福岡は単なる出入国口ではなく、九州というコンテンツのポータル(玄関口)になるべきだ。

 ―縮む日本の中で、人口が増えている福岡市は「まだ大丈夫」と言われている。

 (村岡)これまで地方都市が「あと5年、10年は大丈夫」と言ってそのまま手を打たなかった、というケースはないでしょうか。九州の成長がなければ、福岡市の成長だって分からない。自分は九州以外に興味がない「九州バカ」。ここは世界で37番目(36番目説もある)に大きな島。そんな見方をすれば私たちの地元には暗い将来ではなく、無限の可能性が出てきます。

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