”何となく”の毎日を変える 「明星和楽」を担う大学生が作る、異質とのつながり

 真新しい靴とコートとバッグ。リクルートスーツ姿の若者が行き交う様子は、今や春先の風物詩だ。

 3月に会社説明会が解禁、6月に面接などの採用開始、と流れる一般的な「就職活動」。だが九州大学を今月卒業する松口健司さん(23)はそれを一切経ずに、社会に出る。卒業前に務める学生時代最後の大役が、あるイベントの実行委員長だ。

 みょうじょうわらく、という言葉を耳にしたことがある人は、福岡では少しずつ増えているかもしれない。漢字で書くと「明星和楽」。四字熟語ではない。「テクノロジーとクリエイティブの祭典」と銘打ち、福岡で2011年に始まった。

 米国・テキサスで毎年開かれる世界最大級のクリエイティブビジネスの祭典「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」を福岡でも、と地元のIT関係者が意気投合してスタートした明星和楽。台湾とロンドンでも開催実績があり、松口さんは前回から、実行委員長を務めている。

 明星和楽を一言で説明するのは難しい。「スタートアップ(創業、企業)のイベントって、普通はピッチ(プレゼンテーション)の連続です。そこに『エンターテインメント』を混ぜ合わせたイベントフェスティバルというか…、敢えて言うならば『カオス(混沌=こんとん)』ですね」。逆に言えば、内容を端的にまとめられないのが、このイベントの特徴でもある。松口さんはそこを「いろんなものをつなぎ合わせる場にしたい」と言う。

 なぜ、全国のIT、クリエイティブ関係者からも注目される明星和楽の実行委員長を大学生が務めているのか。実は長崎県内の高校を卒業した松口さん。九大入学後はバイトして友人と飲む―という「フツーの学生」だった。

 転機が訪れたのは2年次の終わり。九大の起業家教育・研究センター「QREC」が主催した、米国・シリコンバレーへの1カ月の短期留学だった。

 「スタンフォード大の学生と話していて、(あえて言えば)自分より小柄でかわいい女の子が、自分の思想と研究を堂々と語り『来年起業するの』と言い切る。そういう人たちがゴロゴロいて、『ケンジは将来なにやりたいの?』と聞かれて答えられなかった」。自分は何をやっているんだろう、と思わされた。

 そしてシリコンバレーで働く人々が口々に言っていたのが「大事なのはネットワーキング」という言葉。「いくらいい製品を作ろうが、人とのつながりがないと、どうしようもない」ということだった。

 現地で松口さんは、「大人」が若者の意見を聞き入れ、若者が大人たちを尊敬する、という関係性ができていることを感じた。これまで「大人なんてつまらない」と思っていた松口さんが初めて触れた感覚だった。

 福岡に戻った松口さんは、自分たちが「何となく過ごす」学生だったことを再認識した。自分自身が変わらないと、とすぐに立ち上げたのが学生団体「Loqui(ロクイ)」。福岡で活躍するさまざまな分野の「大人」に次々とインタビューして記事化した。「福岡にも、シリコンバレーのような素敵な大人がたくさんいることに、自分は気付いていなかった」と振り返る。

 活動を通してつながった人から明星和楽への接点ができ、運営に携わるようになり、実行委員長に至る。

 大学4年次だったこの1年、リクルートスーツに袖を通すことはなかった。代わりに、福岡市の創業支援施設「福岡グロースネクスト(FGN)」内のバーで店長を務めた。今年4月からは、福岡市内のスタートアップ企業の取締役に就任し、オープンイノベーションや企業と人材のマッチングなどを手掛ける。

 その松口さん、日本的な「シューカツ」に少し疑問を抱いている。「3月からヨーイドン、っておかしいですよね」

 「欧米では、学生は入学直後からいろんな会社でインターンをやっているし、小中学生のころから企業とつながっているケースもある」。

 日本の就職活動は、3年の終わりの一斉スタート。「みんな何となく『そういうものだ』と思ってやっている。それがミスマッチにつながって、企業にも学生にも、残念なことになっていると思うんです」

 さらに、社会人の領域に入っていく学生は「意識高い系」などという言葉で、周囲から浮いた存在になってしまうムードが、福岡には根強いとも感じている。学生と社会が「つながる場所」がもっとあってもいいじゃない―。その思いで、松口さんは今回の明星和楽に大学生を企画段階から巻き込んだ。

 明星和楽は23~27日には福岡市のアジア美術館で、30、31日にはFGNに会場を移して開かれ、原則入場無料。(詳細はこちら)。クリエイターやDJ、ライターらのトーク、eスポーツ、学生ハッカソン…繰り広げられるイベントはまさに「混沌」だ。「異なるジャンルのモノとヒトが混じりあえば、さらに面白いものが生まれるきっかけになる」と松口さんは考えている。

 ところで、福岡市の人口に占める大学・短大生の割合は、20政令指定都市の中で、京都に次いで2番目に多い。一方でゲーム、映像、ファッションなどのクリエイティブ関連産業の事業所数は2490カ所(2016年)。14年に比べると約280カ所増えており、政令市で最大の増加幅だった。

 「学生とクリエイティブ」は福岡の財産と言っていい。そんな街で、まだ起こっていない「化学反応」は、無数にあるはずだ。

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