「よそ者」が見た福岡の強さと課題 まちビジネス事業家・木下斉さん

 福岡の人は、福岡が好きだ。

 市の意識調査では「福岡市が好き」と答えた人が97.4%。三菱UFJリサーチ&コンサルティングが全国の政令市と東京都区部の住民に実施した調査では、「愛着」「誇り」「(他人への)お勧め度合い」のいずれも福岡市がダントツだった。統計に頼らずとも、飲み屋では「福岡、いいところやろ?」と福岡愛をあふれさせる客の姿をしばしば見かける。

 そんな福岡人を、正面からくすぐるタイトルの書籍が出た。その名も<福岡が地方最強の都市になった理由>。これもよくある「福岡礼賛本」なのか――。しかし、著者の木下斉さんへのインタビューを通して、それは誤解だったことがわかった。

◇    ◇    ◇

 木下さんは東京都出身の35歳。高校時代から都内で商店会の活動に参加し、大学在学時代に「株式会社商店街ネットワーク」を立ち上げた。その後は各地で地域再生ビジネスを手掛け、熊本市では「熊本城東マネジメント株式会社」を設立。現場で成功と失敗を繰り返しながら、地域活性化の方法論を著してきた。内閣府の地域活性化伝道師も務める。

 その木下さん、なぜ福岡に注目したのか。

 「福岡元気だよね、と最近、周囲で漠然とささやかれるようになりました。出版社の編集者と雑談する中で、なぜ盛り上がったのかを考えようという企画が生まれたんです」

 取り上げたのは明治以降の歴史。これには理由があったという。

 「福岡の人が街を語ると、しばしば江戸以前(例えば金印の発見や鴻臚館といった歴史)までさかのぼっちゃう。それでは実感が持てなくなるので、近現代にひきつけることで、ぼやけさせずに焦点を絞ろうと」

 本の中で、福岡市の強さは「常識破り」をしながら発展してきことにある、と指摘している。どんな常識を破ってきたのかというと、▽まちづくりの主導権を民間に持たせた▽工場誘致から早々と撤退した▽市域を拡大させず、逆に開発抑制プランを打ち立てた――。近代以降の福岡が、都市開発の流行とは「逆」の手を打ってきたという。

 「過去に国が主導して同じことをやらせて、それでへたったところも多い。例えば今も「地方消滅論」のようなものが出ているが、起きているのは人口の取り合いのような間違った競争です。一方、福岡市は路面電車も電力も、民間企業が推し進めて街の原型を作った。そして戦後、一時期は工業誘致を進めようとしたけれど、先達の北九州市の存在もあってうまくいかなかった。すると福岡市は、あっさり方針を撤回して強みの商業を伸ばすことに集中していったんです。数々の制約がある中で、知恵を絞って強い戦略を生み出したのです」

 現在の福岡の強さは過去の積み重ねにある――。その礎として挙げられているのは、街をけん引した5人の強烈な個性だ。

▽実業家で西鉄の源流となった博多電気軌道を創業した渡辺興八郎氏
▽明治から昭和にかけて発送電事業で名を成した実業家の松永安左エ門氏
▽西日本シティ銀行の源流の一つとなる福岡無尽を設立した四島一二三氏
▽めんたいこの「ふくや」を創業した川原俊夫氏
▽アジアに開かれたまちづくりを先導した元市長の進藤一馬氏

 「福岡の先人たちを見ると「よくあの時代にそこまでやったな」と思います。だから今の福岡も、50年後、100年後の人たちに「よくあのとき、そこまで考えていたね」と言わせないといけない」


 こうした個性が今の福岡の強さを作ったと指摘する木下さん。タイトルには「地方最強の都市になった理由」。つまり将来もそうであるか、についてはむしろ懐疑的な視線を投げかけている。

 「かつて福岡で描かれた絵は、電力や鉄道など、きわめて大きなものでした。そしてその大きな絵を、民間の力で実現していった。ただ、今、次を見据えるとどうか。「天神ビッグバン」のような再開発施策は、(街の機能の)リソースの再配置ほどのインパクトはなく、もしかすると、あまり大きな切り札にはならないかもしれません」

 つまり、著書の話はあくまで「(最強の都市に)なった理由」。過去の話なのである。今、福岡市は将来に向けて種をまくことができているのだろうか。「よそ者」である木下さんの目にはどう見えているのか。

 「福岡市の人口が伸びても、九州自体が沈下していけば意味がない。スタートアップ(への支援)は大事だと思いますが、それだけではインパクトは限定的。やはり本丸は、今ある福岡の「でかい会社」です。そのでかい会社が50年後、100年後の街をどう考えるかこそが大事です」

 では、木下さんが考える福岡の「次の一手」、具体的には何なのか。

 「大学の競争力アップと都市の多国籍化は必須です。そのためにはアジアとの関係が不可欠。例えば港湾部(の開発)を多国籍のチームでやることを試行してもいいのではないでしょうか。国際的な街になるには、さまざまな考え方を理解しながら街づくりをしなければならない。アジアの中心を狙っているのはシンガポールや香港。シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズも複合国籍のチームが取り組みました。まだ、そういう自治体は日本にはありません」

 急激な状況の悪化には、企業も個人も必死で対策を取る。本当に怖いのは「ゆるやかな悪化」だ。見えづらい危機を、どこまで意識できるか――。

 「人口が増えている今はまだ、福岡にアドバンテージがあります。ただ人口ボーナス期が終わる2035年ごろまでの間に、街をさらに伸ばすための枠組み変換をやっていかないと、厳しくなるかもしれない。都市の縮小均衡にならないように、次の柱をいつ、どのような形で建てるのか。今こそ、市と民間を含めて若い人がそういう議論ができればいいなと思いますね」

 他都市を追う立場から、今や「日本一元気な地方都市」の追われる立場として他都市から注目を集める福岡市。「よそ者」の視点から、学ぶものは少なくない。

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