【こんにちは!あかちゃん 第11部】脱「お産難民」 産科医療は今<2>医師以外の力生かせ

対馬のお産の現状について意見交換する「たんぽぽ」のメンバー 拡大

対馬のお産の現状について意見交換する「たんぽぽ」のメンバー

 7月、長崎県対馬市の市交流センターに救急救命士や看護師ら24人が集まった。産科救急を学ぶプログラム「BLSO(Basic Life Support in Obstetrics)」の講座が初めて開かれた。

 受講者たちは人形を使い、お産の介助や新生児の蘇生方法、救急車内での分娩(ぶんべん)への対処法などを実践的に学んだ。講座は、2008年に金沢大学の医師らが設立したNPO法人・周生期医療支援機構が開いており、産科医不足を補う試みとして注目されている。

 対馬では、昨年3月で島の北部にある上対馬病院が分娩の取り扱いを中止したため、妊婦は唯一となった南部の対馬いづはら病院で出産している。車で約2時間の距離。病院に到着する前に生まれてしまうケースも起こりうる。産科医不在の状況でも緊急事態に対応できるよう、いづはら病院が企画した。

 山内祐樹医師(32)は「上対馬で産める環境に戻すのが理想だが、現実的には難しい。今、安心して産んでもらうために何ができるかが重要」と指摘する。

 講座の翌日にあった「へき地・離島周産期フォーラム」も、そんな取り組みの一つ。住民に現状を知って考えてもらうのが狙いだった。鹿児島県の奄美大島や徳之島から、インターネット回線と超音波機器を使って妊婦健診ができる遠隔システムなどの先進事例が紹介された。

 上対馬地区の育児サークル「たんぽぽ」の代表、久保嘉代さん(40)もパネリストとして発表した。上対馬病院の分娩中止後、行政に妊婦の支援充実を要望してきた。週1回の会合には山内医師や助産師も定期的に参加して意見交換を行う。12月には、出産、子育てに関する情報サイト「なんじゃもんじゃネット」を開設する計画だ。

 対馬市も今月から、救急搬送体制を充実させるため、ドクターヘリやドクターカーの導入について検討を始めた。久保さんは「子どもは島の宝。島で産み、育てていける環境を守るために、病院、行政、住民、みんなで知恵を絞らなければ」と力を込めた。

 ●都市部ならではの課題も

 離島と都市部では、産科医療の課題は大きく違う。都市部の場合、妊婦の搬送先が見つからない「たらい回し」が問題となった。

 東京都は、2008年に脳出血を起こした妊婦が八つの病院で受け入れを断られ死亡した事件を機に、新搬送システムを導入した。

 以前はかかりつけの産科医が電話で受け入れ先を探す仕組みだった。事件後、都は消防庁に24時間態勢の「搬送コーディネーター」を配置。都内を8ブロックに分け、域内で見つからない場合は、コーディネーターが仲介して別ブロックの病院を探すようにした。

 重症の妊婦を必ず受け入れる「スーパー総合周産期センター」も4カ所指定。輪番制で毎日いずれかの病院が救急搬送に備えている。11年度のコーディネーター搬送は417件、センター搬送は62件に上り「医師の大きな負担軽減になっている」と都の担当者。

 九州の都市部は比較的小さく、首都圏とも事情が異なる。福岡都市圏の場合、かかりつけ医がネット閲覧できる仕組みやコーディネーター制は取り入れられていない。代わりに、七つある中核病院が空きベッドの情報をファクスなどで交換している。

 九州大学病院総合周産期母子医療センターの福嶋恒太郎医師(47)が09年に実施した調査では、母体搬送事例60件のうち、最初の施設で6割、2番目までで9割以上が受け入れており、今のところ良好に機能しているという。一方で福嶋医師は「顔が見える関係に頼っているだけでは限界もある」と指摘する。


=2013/11/14付 西日本新聞朝刊=

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