「…アピールのコツって、あるのでしょうか」学生ではなく、企業が悩む

 「qBiz 西日本新聞経済電子版」は、地場企業の人事担当者が人材育成の課題や改善策を探る「『人事』だらけの生トーク」を福岡市で開いた。集まったのは福岡県内の企業を中心に製造、建設、サービスなど20社。初めて顔を合わせた面々が採用や育成などのテーマごとに語り合う異色のスタイルだ。業種も規模もさまざまな企業同士だが「人事業界」という意味では同じ土俵。各テーブルとも議論は静かに白熱した。低温やけどのような熱気に包まれた2時間半、「現場の叫び」が、グサグサと刺さった。

 会場はグロービス経営大学院福岡校(博多区)の教室。「採用」「育成」「評価・報酬」「ダイバーシティ(女性活躍などの多様性)」「働き方改革」の五つのテーブルを用意し、関心のあるテーマごとに分かれて、60分余りのトークを2セット実施した。最も参加者が多かった「採用」のテーブルにフォーカスする。

◇    ◇

 「採用に戦略はありますか?」
参加者の一人が、各社にこう尋ねた。

 「戦略なんて、ないですよ。採れない状況だから、必然的に、こちら側に選択肢はないし…」。建設業の担当者が少し自嘲気味に応えた。

 厚労省などによると、来春卒業予定の大学生の内定率(10月1日時点)は過去最高の75.2%。企業の人材採用に関するコンサルティングを行うディスコ(東京)の調査では、同日時点で92.7%という数字も出ている。バブル期並みかそれ以上の「売り手市場」が鮮明だ。

 別の建設業者は「これまでは、エントリーや会社訪問の時期を決めて学生を募っていたが、今は逆。こちらが学生の予定に合わせて、丸一日でも空けている」と打ち明けた。

 具体的な採用の戦術を巡っては、各社のさらなる模索と奮闘がうかがえた。まずテーマに上がったのは、いわゆる「就活サイト」の活用についてだ。

 うちは就活サイトを使っていない、という宿泊業の担当者は言った。「他社の事例で、200人のエントリーがあったが、70人しか説明会にこなかったと聞いたから…」。この企業は、学校訪問や、会社のホームページに直接アクセスしてきた学生に確実に連絡を取る「ピンポイント作戦」を重視しているという。

 別の食品メーカーも数年前、学生から企業にエントリーするタイプの就活サイトの利用をやめたという。その代わりに採用したのが、登録した学生に企業側からアプローチできる「オファー型」のサイトだ。

 同社の採用では、面接で学生1人に対して2時間をかけ、じっくり話を聞くようにしたという。「30分で5人の話を聞く面接で、本当に学生のことが分かるでしょうか」。記者自身も新聞社の面接官を経験したことがあるが、正直なところ、その時間では人となりを知ることは難しかった。

 一方、企業間取引(BtoB)が中心の企業からは就活サイトの必要性を訴える声が多く上がった。製造業の担当者は「リクナビやマイナビに載っていないと学生に不審に思われる」。建設業の担当者も「企業名が知られていないので、学生との接点を持つ場所としてどうしても必要だ」と力を込めた。

 別の建設業の担当者はこう漏らした。「親近感を高める目的で、軟らかいテレビCMを作ったけど、学生に聞いたら『見たことがない』と。どうやったら知名度を高めることができるだろう」。そして製造業担当者の言葉に、はっとした。

 「…アピールのコツって、あるのでしょうか」

 これは17年前、学生だった私たちが、就職活動のさなかに交わしていた言葉ではないか。今、アピールするのは学生ではなく、企業側。人手不足が深刻化する中、採用のトレンドが完全に逆転しているのを象徴する言葉だった。

 もう一つ話題になったのは「内定辞退」への対策だった。せっかく内定を出すことができたのに、入社を目の前にして去られる――。企業にとって最もつらい「悲劇」もすでに、日常茶飯事と言って良さそうだ。

 就職情報サイトを運営するリクルートキャリアの調査では、来春卒業予定の大学生の「内定辞退率」は10月時点で64.6%。同社が集計したこの6年間で最も高い。建設会社の担当者は「ウチより大手の○○(トークでは実名)に内定が出たので、と申し出られると返す言葉もない…」と肩を落とす。

 どうすれば防げるのか。「内定後に学校推薦を取ってもらう」「内定後に、学生と、同じ学校出身の先輩社員、人事の三者面談をして、悩みを解消していく」――。各社も知恵を絞っている。

 「100%(入社を)希望する、と言うまで内定を出さない」という「じらし作戦」も挙がったが、共通していたのは、学生にとって「特別な存在になる」という努力だった。「たくさん持っている内定企業カードの1枚になってしまったら、負け。そうならない工夫を考えないと」(建設業)。

 「東京の大手企業はどんどん九州に人を取りに来ている」。そう危機感を訴える声もあった。すると、福岡県外の企業の担当者がこう返した。「こっちには、福岡の会社がどんどん来て、採用を強めている」。

 そして別のサービス業の担当者の言葉に、みんな息をのんだ。

 「人材を採るには、倫理憲章を守らない以外にないですよ」

 倫理憲章とは、経団連が発表した、3月1日以前に採用選考の広報活動を行わないという「指針」のことだ。担当者は続けた。「自分たち地方の中小企業がそこに従っていたら、いつまでも採用できない」

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 「就職戦線異状なし」。バブル期の1991年にヒットした映画が懐かしい。あれから四半世紀を経て、すでに就職戦線そのものが消えつつあるのか。少なくとも九州の「採用戦線」が、し烈を極めているのは間違いない。

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