体育会系からの「海外留学」

 1年間の「海外留学」から帰ってきた。人事交流で出向した先はIT大手のヤフー。会社は東京・紀尾井町にあり外国語は必要ないが、文化の違いはまさに「海外」級だった。

 24歳の入社以来、新聞社で育った。少し穏やかになってはきているが、基本的には体育会系だ。入社当時は毎日、ストレス耐性を試されるかのようにとにかく怒られた。「すみません」が全ての返事とあいさつを兼ねていた。

 原稿に対するデスクの問いに詰まると怒鳴られる。刷りの段階で1カ所「同社がが」となっているのを見つけた時は、怒られるのが怖く「いっそこのままに…」と自分を見失いかけたこともある。諸先輩からすれば、こんなものは序の口にも届かないだろうけど。

 飲みの誘いは絶対で、途中で帰るなど論外。次の日のダメージを抑えようと、焼酎の割合を高めたお湯割りを積極的に上司に差し出して先に酔わせる策を編み出した。怒られながら仕事を覚え、年次を重ねて少しずつ意見が言えるようになる――それが普通だった。

   □    □   

 昨年9月。「新入社員」となったヤフーで、私は直立不動で部長にあいさつした。その返事にたじろいだ。

 「福間さん、よろしくお願いします。分からないことはリーダーに聞いてくださいね」

 上司に「さん」付けされ、しかも敬語を使われたのは初めてだった。アラフォーの自分への気遣いか、と周りを見ると違う。年齢、年次は関係ない。

 若手が甘えるぞ、と当初は違和感を覚えた。でも杞憂で、むしろ利点が多かった。まずコミュニケーションがシンプルになる。例えば新聞社では後輩記者にメールを送る際に、相手の名前の下を「様」にするか呼び捨てるかときどき悩んだ。日ごろから「さん」だと楽だ。そして年次や年齢に邪魔されない会話は、アイデアを広げ、考察を深める。今はむしろ「呼び捨て派」の企業が減っている。

 そして一番驚いたのは「1on1(ワンオンワン)」という取り組みだ。上司と部下が1対1で、わざわざ定期的に時間を作って話す。報告や一般的な面談と違い、上司は部下の話をとにかくじっくり聞く。指導ではなくサポートに徹することで、部下自身が考え、行動する力を身につける手法だ。

 こうした職場環境からか、打ち合わせでは20代から次々に意見が出る。そしてそれをどう具体化するか、若手が責任を持って決めていく。

 〈SNSのチームにアサインしていただきます。このあとMTGですがご都合いかがでしょうか〉。社内チャットでも最初はたじろいだ。新聞社では「な〜んばつやつけとうとや〜」と言われそうだが…。(つやつける=「格好つける」の博多弁)

   □    □   

 年次が浅いころの自分は「駒」だった。当然、厳しい現場に踏み込む記者の世界は一にも二にも経験と訓練だ。そうした業界はたくさんあるだろう。ただ、入社前にはいろんな「夢」を語れたはずの若手を、問答無用でまっさらにするのは、少しもったいなくもある。

 デジタルを活用した新聞の生き残り策を考えてこい、と送り出された。でも一番考えさせられたのは、その入り口の人材育成についてだった。

PR

社説・コラム アクセスランキング

PR

注目のテーマ