【こんにちは!あかちゃん 第11部】脱「お産難民」 産科医療は今<3>医師確保へ抜本改革

先輩医師から指導を受ける中津市民病院の若手医師たち 拡大

先輩医師から指導を受ける中津市民病院の若手医師たち

 予定より10日早い出産を、仲山佳子さん(28)は笑顔で終えた。10月末、大分県中津市の中津市民病院。「家から近く、何かあっても大丈夫と安心していられました。再開してくれて本当によかった」。わが子を前に、心底そう思う。

 結婚して中津市に越してきた4年前、産科は休診中だった。2010年6月に再開。現在は隣接する福岡県東部も含めた24万人医療圏の中核病院として、地域周産期母子医療センターにも認定され、ハイリスク出産も担う。昨年は196件を扱い、今年は300件に迫る勢いだ。

 医師は4人。産婦人科の西田正和部長(39)は「それでも足りない忙しさ。それだけ地域の需要が大きかったと実感しています」と語る。

 06年までは九州大が医師3人を派遣していたが、1人が中途退職し、2人ではハイリスク分娩(ぶんべん)に対応できないことから中止する。医師不足の中、拠点病院に医師を集約して労働環境を守り、お産の安全性と効率性を高める狙いがあった。一方、医師が確保できなくなった市民病院は、07年4月から休診とする。

 人口8万5千人の市でお産ができる施設は、開業のおだクリニック1カ所のみ。年間700件以上を取り扱うことになり、病院側は一時的に医師を2人から3人に増やして対応した。それでもハイリスクとなれば、車で1時間かかる大分市や北九州市へ搬送しなければならない。早稲田直子副院長(55)は「多少リスクがあるお産も引き受けるしかなく、奇跡的に乗り切ったといっていい」と振り返る。

 地元では市民病院の産科存続を求める署名活動が広がった。そこで市、県、大分大、県産婦人科医会が再開を模索。大分大から若手医師を派遣し、定期的に大学の教員が巡回指導するシステム▽県内の病院で勤務すれば返済が免除される後期研修医への奨学金制度▽留学資金の支援制度-などをつくり、医師を確保した。

 後期研修3年目の佐藤初美医師(31)は、3月から市民病院に派遣されている。「自分が生まれた病院もお産をやめた。ここで働けることに大きな意義と喜びを感じています」

 医師の確保は、どの地域にとっても重要課題。長崎県では勤務医の働く環境を改善しようと抜本改革に踏み切った。総合病院での分娩料金値上げと、ワークシェアリング制度の導入だ。

 06年から改革に取り組む長崎大産婦人科の増崎英明教授(61)は「大学の医局員も今より10人以上少なく、産科の印象が悪くて入局者もほとんどいなかった。このままではいつかお産するところがなくなると思い、最優先で進めてきた」と話す。

 長崎の場合、お産の7割を医師2人以下の診療所が担っていた。だが、分娩料金が比較的安い総合病院に、正常分娩も集中する傾向にあったという。

 そこで大学病院の分娩料金を1週間入院で40万円から56万円へ引き上げ、総合病院にも同様に要請した。結果、大学病院ではそれまで2割程度だった正常分娩の割合が10年には1割を切り、代わりに母体搬送の受け入れ数が倍増。ハイリスク分娩は総合病院、正常分娩は診療所と役割分担も明確になった。

 増崎教授は各総合病院の院長と直接交渉し、長期休暇や学会参加、産休からの復職に伴う当直免除などで人手不足が生じた場合、統一された報酬体系で互いに医師を派遣し合える仕組みも考案した。「家族のようにみんなで支え合い、働きやすい環境をつくっていくことが、産科医療を守ることにつながります」。増崎教授はそう確信する。


=2013/11/15付 西日本新聞朝刊=

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