【3年3組 歌声の物語 追跡 合唱コンクール】<中>心の色はつくるもの

 ■道徳教育を考える■ 
 いじめで傷つき、少しずつ歩み始めた生徒の告白のようにも聞こえる。

 校内合唱コンクールに向け、東住吉中学校(福岡市博多区)の3年3組が選んだ自由曲〈あなたへ〉。1番は「愛と涙」「未来」など、美しい歌詞にくるまれている。しかし、2番に入ると、同じ4拍子の旋律にたゆたいながらも、「荒(すさ)んだ」「羨(うらや)んだ」「悲しみ」「憎しみ」などのささくれ立った言葉が「心に刺さる」。

 歌詞の意味を考える授業があったその日、今井としえ教諭(35)は、生徒たちを車座に座らせた。前週の授業では、合唱隊形の横3列に並んでいた。

 「大切なことを話すとき、いつもこうするんです。クラスが見えますから」

 生徒が車座になると、輪の中に加われない生徒がいて、外側に「こぶ」ができるという。この日も、こぶが一つできた。すると、パートリーダーの生徒が「そこ、空けてあげて」と、声を上げ、先生を中心にした車座ができた。

 「共感できる歌詞に線を引き、書き出してごらん」。今井教諭の問い掛けに、多くの生徒が、隣から見えないようにワークシートを手で覆い、書き始めた。支持を集めたのは2番の出だし4行だった。

 「なぜ、そこなの?」。ある女子は友達に視線を送りながら〈いろんなこと〉をほのめかす。ある男子は、サッカーの試合で負けた時の心情を思い返した。
 「これって、生徒にとって、当たり前の日常なんですよ。どの子も通りうる苦しみや悲しみ、そして自分とは何者か…。みんな日々、格闘しているんだと思う。1日に7回ぐらい、それぞれ表情が変わりますからね」(今井教諭)

 授業は後半に入った。今井教諭は、床に赤、緑、青など7色のハートをかたどった色紙を敷き詰め、「あなたの今の感情を色に表現すると、何色ですか?

 一つ選んでください」。見えない心をイメージし、可視化しようとする試みだ。

 生徒たちは、迷いながら色紙を選び整列した。色はばらついていた。

 1人だけ、何も持たない男子生徒がいた。今井教諭が「どうしたの?」と近づくと、ぼそっと「どんな色でもないから」。それを聞いた女子生徒数人が「私も、私も」と、持っていた色紙を次々と床に戻した。

 真意を計りかねた今井教諭は授業終了後、男子生徒に尋ねた。「感情の色は、与えられるものではなく、自分でつくるものだ」という。「みんな、それぞれに色(個性)を持っている」という学びの狙いを、逆に気づかされる形になった。

 コンクールまであと2日となった翌週の授業。小柄な今井教諭の身ぶり手ぶりも、ひときわ大きくなる。

 みんな追い込まれているのだろう。練習途中で男子同士が口論になり、注意した今井教諭を1人の男子生徒がにらみつけた。

 「言葉って大事やろ。ひとことで、こんなにクラスの雰囲気が変わるんだよ」。今井教諭の諭しに気おされ、教室は静まり返った。

 男子生徒は、ふてくされた様子だったが、歌うことをやめなかった。そして今井教諭が「〈荒んだ心〉って分かる人?」と問い掛けると、真っ先に手を挙げた。生徒同士、生徒と先生の衝突、和解、感情理解を経て、クラスの歌声は「行進曲」のような力を帯びていくようだった。

 文字通り〈いろんなことがあって〉、3年3組の校内合唱コンクールはいよいよ、本番を迎えることになった。


=2013/11/19付 西日本新聞朝刊=

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