バー「ソロモン」、キープするのはガンプラ ホワイトベースは”陥落” <ガンダムを訪ねてin九州 第1話>

 2019年は「機動戦士ガンダム」の放送から40周年。記念すべき年を控えて、さまざまなシーンにガンダムの波が来ている。

 NHKが「全ガンダム大投票」をやっていたり。
 AbemaTVや東京MXテレビでのシリーズ再放送が話題になったり。
 永野椎菜さんのtwitterのフォロワーが急増したり。
 アニメ「ポプテピピック」でもガンダムネタが多かった。

 伊集院光さんが以前、深夜ラジオで「ガンダム接待」という概念を唱えていた。初代ガンダムを見た世代が社内で昇進し、その上司をもてなすため、部下がガンダムについて勉強して話を合わせる。そんな内容だったと記憶している。そんな時代も来つつあるかもしれない。

 女性人気も侮れない。4年ほど前、他のマスコミの女性記者2人が私の集めていたフィギュアを見て「これってガンダムSEEDですよね」と知っていた。2人ともガンダム好きではなかったのに。興味深そうに女性キャラのフィギュアのスカートの内側をのぞいていた。

 なぜガンダムは根強いのか。シリーズが続き、新しいファンを獲得できているのか。九州のガンダムにまつわるスポットを訪ねれば、感じることができるかもしれない。この論理はこじつけか。いや、こんな時こそDON'T STOP! CARRY ON! 止まるんじゃねえぞ。

 というわけで、今回の企画「ガンダムを訪ねてin九州」。手始めに、福岡市内のガンダムバーを訪れることにした。

願望募らせ09年にオープン

 西鉄大橋駅から歩いて15分ほど。南区塩原にある「ZEON-SIDE DINING BAR SOLOMON」。ジオン軍の宇宙要塞「ソロモン」の名の通り、同軍のモビルスーツのプラモデルやフィギュアがところ狭しと並ぶ。はっきり言って連邦サイドの白い機体は少ない。高さ1メートルを超える木製のサザビーもそびえ立つ。

  「600体は超えてるでしょうか。お客さんのものが9割以上ですよ」とオーナーの松本伸雄さん(49)。お気に入りのガンプラを持ち込んで飾り、友達連れで来た際に見せて楽しめる、ボトルキープならぬ「ガンプラキープ」というサービスが好評らしい。

 「私が作ったガンプラを『見て下さい』というのはあまりやりたくなかったんです。家でゲームしたり、ガンプラ作ったりという生活をしているガンダム好きに出てきてほしかった」

 「仲間をつくり、ガンダム話をする場所をという思いだったので、皆さんから持ってきてもらうことを心掛けました。ただ、かっこいいガンプラを持ってこられて、それを見たら、作りたくてしょうがなくて、結局私もちょこちょこっと飾ってはいます」

 「大佐」と呼ばれる松本さん。ソロモンの主であれば、ドズル・ザビと同じ「中将」では?

 「最初は中将が恐れ多くて大佐からスタートしてたら、途中で『中将になりました』というのも恥ずかしくて、大佐止まりです。えへへ」

 昼間は自営で内装関係の設計などを手掛ける大佐。初代ガンダムをリアルタイムで見ていた世代で、ガンプラは並んでもなかなか買えなかった。「なぜか買いたくもない戦車とか飛行機のプラモを一緒に買わされるという。『うわ、こんな商売あるんだ』。大人の商売を勉強できた時代でした」

 「Z」、「ZZ」を見た後、一時期ガンダムから離れた。「当時はデザインがかっこいいな、という見方をしていて、ストーリーはあまり見てなかったんですよ。大人になってもう一度見直して、深い内容だなあと。正義の味方と悪が戦うんじゃない、人と人との戦いなんだと感じました」。20歳ごろから再びガンプラにはまるなど、ガンダム愛がよみがえった。

 「宇宙世紀」だけじゃなく、「00」なども見るが、やっぱり初代が好き。店の中もファースト寄りだ。元々は客としてガンダムバーを楽しむ側で、福岡でのオープンを待つ側だった。だが「待てど暮らせど福岡にはできないので、自分の願望をやっちゃえ」とばかりに、2009年の6月に開店した。

【写真:ソロモンの人気メニュー「ズゴックの唐揚げ」(左)と「ゴッグの爪」】

「坊やだからさ」「ズゴックの唐揚げ」

 ソロモンの看板メニューは、シャアのコスプレをして、グラスを片手に「坊やだからさ」とつぶやける「シャアのバーボン」。そしてダイニングバーだから当然、フードにもこだわりがある。ズゴックのフィギュアと唐揚げが一緒に盛られた、その名も「ズゴックの唐揚げ」だ。自家製のガーリックパウダーを衣に混ぜて手作りしており、意外と言っては失礼だが、人気というのもうなずける味だった。

 「『生きの良いズゴックがベルファストで取れて、博多港に送られた分を料理しています』みたいな、そういう変なことばっかり考えています。ついこんなのが面白いだろうなと思うと、やっちゃうんですよね」

 メニューは自身の願望の塊だが、プラモなどにあふれた店内は客と作り上げた。オープン当時はスカスカだったが、今は置き場所が無くなりつつあるほど。

 「そろそろやばいですね。カウンターもどんどん狭くなって、無理してますもんね。どうしましょうかね。お客さんのものは処分できないですからね」

 店の奧、特等席ともいえるテーブルの隣には、ソロモンでジオンと連邦が激戦を繰り広げるジオラマがある。ビグザムにドム、ザクと相対するジムやボール。常連客と店のスタッフが協力して作り上げ、ホビーショーに出品した。場面といい、経緯といい、バーの象徴的存在だ。

【写真:ソロモンでの戦いを再現したジオラマ】

 実はソロモンという店名は、大佐の第一希望ではなかった。子どものころ、ザクのデザインに驚いてガンダム好きが始まったという、根っからのジオン党。当初、店名に考えていたのは「ア・バオア・クー」だった。

 「サーベルを飾ったりとか、シャアとアムロが戦ってるあの部屋をつくりたいとか…。でも、調べたら、聖地の名古屋にア・バオア・クー(という名のガンダムバー)があったんですよ。日本に二つあっちゃ駄目だろうという、変な使命感が湧きまして。当時、無いのはソロモンがグラナダか。ソロモンの方が皆さんよく知ってるかなと」

 大佐はファースト好きだが、客はさまざま。「ガンダムの入り方として、40代の方はファースト見てました、30代の方はBB戦士からとか。女性で多いのはSEED見て、それからさかのぼったり」

 来店は20〜40代がまんべんなく多いといい、2、3年前からは女性も増えたとか。「ユニコーン辺りで若い声優さんも出てたので、その声優さんのファンもいらっしゃるのでは」

 そして、ガンプラ好きにも女性が少なくないという。半年に1回ほど店が開くガンプラ選手権。「作品を評価してもらう場ってなかなかないですけど、専門の本とかプラモデル店の主催って、ガチじゃないですか。ここはおふざけで、ゆる〜い感じでやってます。酔っぱったお客さんが投票してますから(笑)」

 選手権では○○縛り、というようなルールを設けることもあるが、「水陸両用縛り」という回では、モビルスーツではなく、水陸両用に乗るキャラクター「赤鼻」を縛ってきた作品が出た。「ダジャレです。もはやプラモでもない(笑)」。インパクトで優勝を飾った。

 気になるガンプラがあった。この沈んでいるのは…ハイゴッグ? 「そうです。お母さんとお子さんが別の作品を作っていて、海に沈んでいるのはお母さんの作品です。アイデア満載で、選手権は楽しいですね」

【写真:(左)縛られた赤鼻(右)沈んだハイゴッグ】

経営不振で「木馬」は閉店、艦長をソロモンに配置換え

 ガンプラやバーのメニュー、お客さんについて語る大佐は本当に生き生きとしている。つらいことはないのか。

 「大きな声で言えないですけど、経営不振ですね。生活的にも内装の仕事をもっとやらないと難しいよね、ということになりました。ガンダムバーというより、飲食業全体がつらいのかなと。ここ半年ぐらいが厳しいですかね。去年の年末は忘年会の予約が少なかった」

 実は、大佐はもう1店舗、ガンダムバーを経営している。同区大橋にある「E.F.S.F ガンダムバー ホワイトベース」。大佐の長男、祐多さん(22)が艦長(店長)を務めていたが、こちらを3月末で閉店し、4月以降は裕多さんにソロモンを主に任せる。大佐は「週末とかは出るつもりですけど、今後は内装の仕事と、五分五分かなあという感じです」と、どこか寂しそうに話してくれた。

【写真:経営不振のため、3月末で閉店する「ホワイトベース」】

 ソロモンを残すか、ホワイトベースを残すか、大佐の決断の裏にはさまざまな事情があるはずだ。とはいっても、お客さんの声を受けて悩んだ大佐が「木馬」ではなくジオンサイドを選んだという事実は、ガンダムファンたちの生き様、こだわりの象徴ではないだろうか。

 続く店もあれば、閉まる店もある。好景気とはいえ、厳しい飲食業界。「悲しいけどこれ、戦争なのよね」――。ソロモンに散った、スレッガー・ロウ中尉の言葉が胸に響いた。(三重野諭)

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