キラキラな久留米の「中立コロニー」 舞い降りる剣は刻(とき)をこえて <ガンダムを訪ねてin九州 第2話>

 「三重野君がおすすめするVガンダムを今見ているよ」。最近、社内のガンダム仲間(特に富野由悠季氏の作品ファン)の一人に話しかけられた。

 確かに私はVガンダム好きではある。そういえば、この企画にも「Vガン」っぽい類似点がある。「Vガン」は冒頭の4話が時系列通りではない。第1話に続く2〜4話が、1話からさかのぼった過去の話なのだ。

 この企画「ガンダムを訪ねてin九州」も時系列ではない。第2回でお届けするのは、第1回よりも先に取材した、私が初めて訪れたガンダムバーについての話だ。

 ガンダムにまつわる場所や人を訪ねて、ガンダムの魅力を探るこの企画。今回は福岡県久留米市の「GUNDAM na BAR SIDE-6」に”入港”したリポートをお届けする。

本業は美容師、閉店後に開店する日々

 西鉄久留米駅から歩いて10分ちょっと。銀色の扉を開けると、キラキラした世界が待っていた。銀色のメタリックなテーブルや内装に、白い機体が映える。RX-78、マークⅡ、F91、GP-01フルバーニアン、ウイングゼロ、ゼロカスタム、エクシア、バルバトス。福岡県の”ご当地ガンダム”ことAGE-1とAGE-2もいた。

 「ほぼ僕のコレクションです。主役機は良いですよね。まだ作ってない、積みプラもいっぱいあるんですけど」。そう話すのは、オーナーのカムラン・ブルームさん(46)。ファーストガンダムの中立コロニー群「サイド6」を店名に、そして作品に登場するサイド6の検察官の名前をそのまま名乗っている。

 「中立ですから。連邦好きもジオン好きも、ティターンズも、コーディネーターも仲良くケンカせず飲んで下さい、という意味で決めました」。本名は伊藤貴雄さん。20年以上続けている美容師が本業で、バーのオーナーとの”スイッチ”を切り替えるために、キャラクター名を名乗っている。

 経営する美容室を閉めた約1時間後にはバーを開けている。開業のきっかけは、プラモやフィギュアのコレクション歴が20年を越え、置き場がなくなったことだという。

 「子どもが大きくなって僕の部屋を取られたので、美容室に持ってきたんです。そしたらお客様が『おもちゃ屋さんみたいになってきたね』って。妻も美容室で働いているので、『倉庫でも借りたら』となりまして」

 しかし、レンタル倉庫を訪れると…。「意外と高い。ワンルーム借りれるじゃん」

 とはいえ、部屋を借りて”別宅”を持っていると捉えられると、世間体やイメージが悪いのでは…。そこで頭をよぎったのが、ガンダムバーだった。

 「どこかにしまうより、やっぱ飾りたいじゃないですか。せっかくならば、ガンダム好きな方の前に並べて、一緒に飲めたらいいなと思いまして」。ガンダムバーのアイデアを話すと、予想以上に受けが良かった。「『面白いね』って、乗っかってきてくれて。店が入るビルの当時のオーナーも、家賃を少し安くしてくれたり、看板の材料をくれたり」

 ただ、父親として、慎重な部分もあった。「『オタク』とか言う人もいるじゃないですか。もし親の職業で子どもがいじめられたら、かわいそうだと思いまして」。下の子が義務教育を終えた昨年3月まで待って、念願のオープンを迎えた。

一番人気は「カミーユ」

 メニューは機体やキャラクター、ガンダム用語にちなんだものばかり。色を意識して合わせたカクテルが多い。一番売れているのは「カミーユ・ビダン」。ノーマルスーツや機体をイメージした、ブルーと白のカクテル。リキュールとブルーキュラソーをソーダで割っている。ビームサーベルを模したマドラーでかき混ぜて口にすると…飲みやすい。繊細で気むずかしいところもある、カミーユの性格とはややかけ離れた印象を持った。

 グラスの中の氷は、RX-78の形だった。かき混ぜると沈むガンダム。Zガンダムは残念ながら持っている型枠にないそうだ。「氷とかマドラーとか、コースターもガンダム。細かいこだわりをお客さんに楽しんでもらえるのが、一番うれしいですね」

【写真:ビンテージ”のグラス。すごく状態が良い】

 ビール用に使うグラスもガンダムだ。「35年ぐらい前ですかね、サントリーのものです。1リットルのオレンジジュースを2本買ったら、1個もらえたんですよ。実家にあったので、遠い記憶に残っていたんです。ネットで探して50個買いました」

 壁に掛かったレーザーディスク(LD)のボックスの箱にも目が奪われた。ZZガンダムが超かっこいい。ジュドー・アーシタやルー・ルカは、もはや別人だ。アニメじゃない。安彦良和氏の書き下ろしという。「作画タッチがすごく好きで。映像の画質はDVDの方が全然きれいですけど、(LDが)なくなる前にと思って買いそろえました」

伯父さんが描いた家宝「ラストシューティング」

 そのLDボックスを上回る家宝があるという。入り口すぐの右手に、「ラストシューティング」と呼ばれる、おなじみのイラストがあった。劇場版の「機動戦士ガンダムⅢ めぐりあい宇宙編」のポスター…にしては大きい。「画家の伯父さんがキャンバスに描いてくれたんですよ」。カムランさんの自宅のリビングに飾ってあったものだ。

 映画を見た当時は小学生で、ポスターを買えなかった。「パンフレットか何かだったと思うんですが、伯父さんに渡して『ポスターよりデカく描いて』って頼みました」

 映画の看板絵師もやっていたという、伯父の伊藤充生さん(故人)。プロのこだわりからか、サンライズに電話して、「大河原邦男さんと同じアクリルを送ってほしい」と頼んだという。同じ画材で、同じタッチで描かれた作品。塗り重ねられた凹凸が、ポスターにはない迫力を生み出した。

【写真:オーナーの伯父がキャンバスに描いた「ラストシューティング」】

 コレクションや家宝がずらりと並ぶ店を訪れる客層は? 「多いのは30代。30〜40代は男性が中心、20代は女性も多いですね。近くでお勤めの方が多いですが、九州各地、鹿児島から来る方もいます。関東から久留米への出張がてら、という方も」。老若男女が気軽に来店できる、美容室のようなライトな雰囲気を意識しているそうだ。

 「店は趣味」「毎日が晩酌」「全然利益は出ています」。経営に苦労するような面を見せず、「僕が一番楽しんでいます。そうでないと、お客さんも楽しめないと思うので」とさらりと語るカムランさん。バーを1年やって良かったと思えるのは、どんな時――。この質問に、この日一番の笑顔を見せた。

 「ファンの幅広さは意外でした。普通は出会わないような20歳ぐらいと50歳ぐらいの男性客が、ガンダムを介して話が広がったんですよ。うれしいですよね」

 そのとき、親子であってもおかしくないような年の差の2人の共通の話題は、ガンダムSEEDの35話「舞いおりる剣」だったという。死んだと思われていた主人公のキラ・ヤマトがフリーダムガンダムで現れ、母艦アークエンジェルの大ピンチを救うシーンだった。「良い感じで盛り上がっていた2人を見て、お店やって良かったなあって、思えました」

 カムランさん自身の「推し」ガンダムは「やっぱりファースト。宇宙世紀のシリーズ」と語るものの、2人が盛り上がったSEED35話のシーンは「僕も大好き。世代問わず、皆が鳥肌立つところですよね」

 私も大好きなそのシーンが放送されたのは、15年近く前のこと。親子ぐらいの年齢差の男性客2人だけでなく、46歳のカムランさんも、36歳の記者(私)も2018年の今、あらためて心をときめかせ、意気投合する。ガンダムSEEDという作品の、特に傑作とされる「神回」の底力を感じずにはいられなかった。(三重野諭)

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