【3年3組 歌声の物語 追跡 合唱コンクール】<下>人生を歌い、考える

市民ホールであった3年3組の合唱。直前に骨折した男子生徒(前列右端)は松葉づえをついて歌った 拡大

市民ホールであった3年3組の合唱。直前に骨折した男子生徒(前列右端)は松葉づえをついて歌った

 ■道徳教育を考える■ 
 「メッチャ、緊張してきたっちゃけど」「私も」。女子生徒のひそひそ声が聞こえてきた。

 東住吉中学校(福岡市博多区)の校内合唱コンクールは10月18日、本番を迎えた。多くの中学校では体育館で開催されるが、同校では地域の人にも広く聞いてもらおうと、学校近くにある市民ホールで開かれる。

 1年生から順に歌う。3クラスある3年生。3組はくじで、学年トップで歌う。声変わりの時期にあたる2年生の歌声は思いの外、朗々と安定していて、3年生を緊張させた。

 いつも授業中、担任の今井としえ教諭(35)にツッコミを入れ、悩ませる男子生徒たちも、この日ばかりは口数が少ない。
 静まりかえったホール。指揮をする生徒が両手を振り上げる。「バーン」とピアノの和音が響くと、3年3組の合唱が始まった。

 音楽の授業や朝、昼休み、放課後の練習風景がよみがえってくる。

 今井教諭の一連の授業テーマは「人生を歌おう」だった。歌詞に登場する「僕」「あなた」「意外な奴(やつ)」の心をくみ取り、歌うことで己を見つめ、この3年間を振り返る機会にしてもらいたかった。

 だから、先生はこんな問いを繰り返した。

 「心を持って音楽室に来ていますか?」「あなたにとっての、あなたは誰?」「見えないものを、見ようとしていますか?」

 生徒たちは前日、不登校の生徒に寄せ書きを書いていた。風邪で発熱、欠席した生徒は当日、みんなが学校から会場へ歩いて向かう途中、マンションのベランダから大きく手を振った。本番目前に足を骨折した生徒は、松葉づえをついてステージに立った。

 そんな生徒29人の思いがつながった歌声は〈悲しみを知った分 優しくなれる〉で終わった。

 哲学者で6年前に他界した池田晶子さんは、著書〈14歳の君へ〉でこんな言葉を遺している。

 「『道徳』というのはまさに、その『どうやって生きるのか』を考えることなんだ」

 「誰かが決めてくれた善悪に従って生きることは楽なことだ。だけど、そんなものは信じられない。だって、それが本当かどうかわからないからだ。だから君は、これからの人生、すごく大変なことだけれども、常に自分で考えなくちゃならない」

 担任以外の教員たちで選考する審査で、3年3組は銀賞に輝いた。金賞を受賞したのは、同校初のアカペラで〈あんたがたどこさ〉に挑戦した3年1組。1組の大はしゃぎとは異なり、3組はビミョーな歓喜だった。女子数人は泣いていた。うれし涙と悔し涙が入り交じっていた。

 コンクールが終わっても、3年3組自前の表彰式は続いた。歌いたくても歌えなかったピアノ奏者に手渡された小さな色紙には「最高の音をありがとう」などとつづられていた。

 とどめのサプライズは、同僚による今井教諭の結婚発表だった。「えーっ、誰とー」。金賞を上回る歓声が巻き起こり、写真撮影をしていた今井教諭は、生徒たちに囲まれ、もみくちゃになった。

 生徒から贈られた花束を手に、今井教諭は「人生って、必ずしもフォルテ(強く)ばかりでなくていいと思う。友達のため息やうつむき、つぶやき…。ピアニシモ(ごく弱く)も感じられる人であってもらいたい」。記念撮影を終えると、生徒たちからは「あー、今度は受験だ」の声が上がった。


=2013/11/26付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ