【傾聴記】ホームホスピスの芽よ育て

 「ホームホスピス」という取り組みを知っていますか。

 がんや認知症などで終末期を迎えた人たちが、地域の空き家を改修したこぢんまりした施設で、自分の家にいるような雰囲気のまま、最期まで過ごす。入居者は5人程度。医療・介護の専門家が連携して24時間体制でケアをする。

 2004年に宮崎市で生まれ、現在は熊本、福岡など西日本を中心に広がっている。「地域から生えてきた」と表現され、国の制度の枠組みに属しないため、年齢や要介護認定などにこだわらず、柔軟な受け入れとケアができる。

 11月上旬、発祥の地・宮崎市であった第2回ホームホスピス全国合同研修会。現役スタッフ、ホームホスピスに関心を持つ人など全国の約160人が「暮らしの中で“死にゆく”こと」をテーマに情報交換した。食事、睡眠、みとり…。発表された実践の数々に、私は驚かされた。

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 例えば「かあさんの家 霧島」(宮崎市)は、口腔(こうくう)ケアや個別メニューの工夫で「最後まで口から食べられる幸せ」を追求した。結果、胃に穴を開けて直接栄養を送る胃ろうを施していた4人が、口で食べられるようになった。そうして元気を取り戻し、寝たきり状態から歩けるようになった女性もいるという。

 睡眠バランスが崩れ、認知症による徘徊(はいかい)や放尿、暴言が激しかった80代男性。「神戸なごみの家」(神戸市)で献身的な介護と、規則正しい生活で朝日を浴びる光療法の結果、問題行動が消え、妻の待つ自宅に戻った。

 生活感あふれる雰囲気での五感に働きかけるケアで、高齢者が「患者」「被介護者」でなく、本来の「生活者」の姿を取り戻す。ある入居者の家族は「人間が人間らしく生きられる場所」と語った。

 「お帰りなさい」-スタッフは入居者に会いに来る家族にこう声を掛ける。家族にとっても「家」となり、安らかな死を共有することで「介護やみとりが良い思い出」になるように支える。病院で亡くなる人が8割を超える現代日本で、ホームホスピスはみとりを家族や地域に取り戻すことも目標に掲げている。

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 研修会では、こうした試みを評価した上で「もどき」の増加を懸念する声も上がった。国際医療福祉大学大学院の高橋紘士教授は「簡単に増やせるケアではない」と、高水準を保ったまま普及させる難しさを指摘した。

 提唱者のNPO法人「ホームホスピス宮崎」(宮崎市)は、介護分野での「ホームホスピス」を商標登録。同じ志を抱き、高水準を維持できる人たちと契約する形で取り組みを広めていくとしている。

 一方、九州で開設しようとして「認知症の人にうろうろされると困る」など住民の反対で断念した例も。ホームホスピス宮崎の市原美穂理事長は「地域から生えてきたホームホスピスを育てるのは地域の理解と共感」と強調する。

 実際、多くのホームホスピスが周辺住民のボランティアのおかげでより充実したケアを実現している。九州で芽生えた先進的な取り組みが、豊かな実りをもたらすよう応援したい。


=2013/11/28付 西日本新聞朝刊=

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