【子どもの貧困を考える】大阪2児放置死事件を映画化 緒方貴臣監督に聞く<上>

 ●「母性」の幻想が育児熱心な母親を追い詰めたのか 
 2010年夏、大阪市内のマンションで母親=当時(23)=に置き去りにされた3歳の娘と1歳の息子が餓死した。母子家庭で起きたこの事件を題材に、福岡市出身の緒方貴臣監督(32)が映画「子宮に沈める」を制作。殺人罪に問われた母親の懲役30年が確定した今春、完成した。裁判では、育児熱心だった母親が経済的に困窮し、頼れる人もなく孤立していく様子が明らかになった。そして母親は法廷でこう漏らす。「誰も助けてくれないと思った」-。母子家庭を追い詰めていく社会の実相に迫った緒方監督に、映画に込めた思いを聞いた。

 ニュースを耳にした時、幼い2人の遺体が寄り添うように横たわる映像が脳裏に浮かんだという。そのシーンが焼き付いて、頭から離れなくなった。

 「ただショックで…。でも当初は、映画化なんて考えてもいなかった」

 最初に引っかかりを覚えたのは、逮捕された母親がつづっていたブログを読んでからだった。文面からは「子どもが自分の幸せ」という思いがあふれていた。特別ひどい人間とは思えない。残酷な事件とのギャップは、何なのだろうか。

 《シーン(1)=映画の主人公は専業主婦の由希子。夫から一方的に別れを告げられ、働いて1人で家計を支えることに。多忙な中でも子どもに笑顔で接し、夜は資格の勉強に励んだ》

 その姿に、緒方さんは自分の妹を重ね合わせた。

 妹も19歳で離婚し、2歳の息子を連れて実家に帰ってきた。一方、自分は高校中退後に起こした会社が軌道に乗り、気が大きくなっていた。昼夜に二つの仕事をこなし、子どもが泣いても気付かないほど眠りこける妹を「甘い」と非難する。

 「離婚で傷つきながらも必死に働いていたのに『母親だろ、もっと頑張れよ』と。学歴も職歴もない10代の母親の就職がどんなに大変か、知らなかった」

 《シーン(2)=子どもの急病などで休みが重なり、働きづらくなった由希子は、短時間・高収入をうたう夜の仕事へ。次第に生活は荒れ、育児からの逃避、寂しさを埋めるためにホストクラブに通い始める》

 そんな暮らしぶりが明らかになるにつれて、母親へのバッシングは日に日に激しくなっていく。一方、養育費すら払わない父親を非難する声は少なかった。

 緒方さんの引っかかりは少しずつ大きくなっていった。映画化を視野に入れ、妹をはじめ約20人の母親の声を聞いて歩いた。そのうちに、バッシングの根底にあるものが見えてきた。

 母親なら子どもを第一に考えるもの、母親なら自分を犠牲に、母親なら…。

 「事件を起こした母親もブログの中で、男社会が描く“母性”への幻想を演じていたのかもしれない」

 ▼おがた・たかおみ 福岡市出身。2009年、性虐待や自傷行為を描いた映画「終わらない青」で監督デビュー。「子宮に沈める」は3作目で、NPO法人児童虐待防止全国ネットワークが呼び掛ける「オレンジリボン運動」の推薦映画に。今月、東京で封切りされた。問い合わせはメール(info@paranoidkitchen.com)で。


=2013/11/30付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ