【自由帳】「3年3組 歌声の物語」 教師の祈りも旋律に乗せ

合唱曲「あなたへ」を題材にした音楽の授業では、生徒たちが好きな歌詞を書き出し、曲の理解を深めていった 拡大

合唱曲「あなたへ」を題材にした音楽の授業では、生徒たちが好きな歌詞を書き出し、曲の理解を深めていった

 ■道徳教育を考える■ 
 クラスの歌声を作り上げてゆく校内合唱コンクール。その道のりを、音楽という側面ばかりではなく、道徳の学びとして捉えると、どんな風景が広がっているのだろう。そんな視点から、東住吉中学校(福岡市博多区)3年3組の歌声を追跡取材した。

 生徒たちが歌った合唱曲〈あなたへ〉にも物語があった。ある小学校の先生が、教え子たちに贈った曲が、全国で歌い継がれるようになった。作詞作曲した筒井雅子教諭は、東京都杉並区にある桃井第一小学校で今も教壇に立つ。

 曲が生まれたのは10年前。筒井教諭はその前年まで、別の小学校で音楽教諭として勤務していたが、異動で転任した。卒業式が近づいたころ、前任の小学校から卒業アルバムに寄せるメッセージを求められた。

 その時、生まれたのが〈あなたへ〉。歌詞と楽譜を贈った。歌詞の始まりは「白木蓮にも似た その白い翼で」。卒業式のころ、その学校ではハクモクレンが鮮やかに咲いた。原曲はその1番だけだった。

 やがて筒井教諭は、地元の中学生-社会人を対象にした混声合唱団から合唱曲の作成を依頼された。「新たな春」をイメージして、2番も加えた〈あなたへ〉は生まれた。

 「私自身、家族の入院とか、大変な時期でもあったのですが、あふれるように詞も曲も生まれた。必ずしもバラ色でない時代に、旅立ってゆく〈あなたへ〉のメッセージだった。手をつなぎ合える人と出会って、乗り越えていってほしいと」(筒井教諭)

 合唱をたまたま聴いた音楽出版社の担当者が共鳴し、合唱曲集に掲載され、
全国に広まった。

 ☆ ☆ 

 3年3組の歌の指導に当たった今井としえ教諭は、青い海とサトウキビ畑が広がる沖永良部島(鹿児島県)で生まれ育った。

 幼稚園に入ったころ、妹が生まれたが、心臓が弱かった。福岡市の専門病院で治療にあたる妹に、母は付きっきりになり、幼い今井教諭は島に残された。父も仕事に追われている。そんな時、祖母が「今から、お祈りするからね」と、よく島唄〈ティンサグの花〉を歌ってくれた。

 〈ちんさぐぬ花や 爪先(ちみさち)に染(す)みて 親(うや)ぬゆし事や 肝(ちむ)に染みり〉

 (ホウセンカの真っ赤な花を、娘たちはマニキュアのように爪に染めて遊ぶけれど、親の教えは心の中に染めなさい)

 教師を目指すようになったのは中学時代。「友達に無視されたり、物がなくなったり、いろいろありました」。そんな悩みや相談を、今井教諭は手紙につづり、憧れの音楽の先生にたびたび手渡した。

 先生は必ず返事をくれた。「私にもつらいときがある」といった文面で、励ましの詩なども添えられていた。「先生にも悩みはあるんだ、って驚きだった」。教師への憧れが強まっていったという。

 大学卒業時は、教員採用が抑制され、とりわけ音楽教諭への道は険しかった。福岡市内の小中学校で非常勤講師を務める傍ら、アルバイトを4年ほど続け、27歳で教諭になった。そのころ、1人暮らしの部屋でよく、三線を手に〈ティンサグの花〉を歌った。

 今井教諭は振り返る。「歌は祈りだなって、しみじみ思えた。私が悲しい思いをすれば悲しみ、頑張れば喜んでくれる家族がいる。一人じゃないんだと。生徒たちには、そんな歌の力を知ってもらいたい」

 生徒たちの歌声の向こうで、教師たちの「祈り」も連なり、ハーモニーを奏でていた。 


=2013/12/03付 西日本新聞朝刊=

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