【傾聴記】福岡の医院火災後 入院廃止する診療所 高齢者の行き先は…

行き先が決まらない義姉を見舞う藤喜代子さん(右) 拡大

行き先が決まらない義姉を見舞う藤喜代子さん(右)

 「誰も責めるつもりはありません。あの火事さえなければ…」。「紅皿」に、夫の姉(83)をめぐる苦境を寄せた福岡市中央区の藤(とう)喜代子さん(75)を訪ねると、疲れた様子でこう語った。

 義姉は10月末、2年4カ月にわたって入院していた福岡市内の整形外科医院を退院した。紹介された病院に移ったが、「3カ月で退院を」と迫られている。2月以降の居場所として高齢者施設を中心に探すが、義姉の年金の範囲内だとなかなか見つからない。

 入院していたのは病床数19以下の「有床診療所」。10月11日未明の火災で、高齢の入院患者など10人が犠牲になった福岡市博多区の整形外科医院と「よく似ていた」(藤さん)という。

 火災から約半月後の10月下旬、藤さんは院長に「入院はやめる」と促され、ばたばたと義姉を転院させた。この院長に取材を申し込むと「心が折れそうで、話はできない」と断られた。

 ただ「法規制が厳しくなれば、続けられない。もし同じような火災が起きたら責任がとれない。患者さんには深くおわび申し上げたい」とだけ語った。

 ■ ■ 

 実は、義姉は72歳から10年以上、骨折や脳出血などで福岡市内の病院、老人保健施設、住宅型有料老人ホームなど13カ所を転々としてきた。最後に行き着いたのが、有床診療所だった。

 要介護度は1。離婚して家族がなく、72歳までは同居の藤さんが世話をした。現在、藤さんが夫(80)と暮らす賃貸マンションにもう同居の余地はない。藤さん自身も体調は優れず「老老介護はつらい」と漏らす。行き先が定まらない義姉は「楽しいことは何もない」とつぶやいた。

 あの火災以降、入院を廃止する有床診療所が相次いでいるという。藤さんのように、退院後の居場所探しに苦労する高齢者とその家族は少なくないはずだ。国は経営難の有床診療所の存続に向け、診療報酬引き上げやスプリンクラー設置補助などを検討している。

 しかし、問題はそれだけだろうか。介護者がいない高齢者が医療機関を居場所にせざるを得ない状況は矛盾している。超高齢社会の今、在宅介護への支援と、受け入れ可能な介護施設を充実させ、孤独な高齢者が安心して退院できる環境を整えることが急務だ。


=2013/12/05付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ