【子どもの貧困を考える】大阪2児放置死事件を映画化 緒方貴臣監督に聞く<下>

 ●特殊な事件ではない 子育てしにくい社会 母親たちから感じた 
 2010年に大阪で起きた2児放置死事件。3歳と1歳の子を餓死させた母親に、世間は激しいバッシングを浴びせた。そんな風潮に違和感を覚えた緒方貴臣監督(32)=福岡市出身=は映画化を視野に、母親たちの声を聞いて歩いた。

 「この子がいなければ幸せになれると思い、首に手をかけたことがある」「事件はうちでもあり得た」…。シングルマザーの妹をはじめ、約20人の母親の本音に触れて確信した。

 「特殊な事件ではない」

 事件の母親は、別れた夫が養育費も払わず、頼れる人もなく孤立していた。一方、取材した母親たちは、そこまで追い詰められているわけではない。それでも出てくる「手をかけた」という言葉…。

 「少子化だから産めと求める割に育てやすい社会じゃない」

 《シーン(3)=映画「子宮に沈める」の主人公・由希子は、気を引こうとする子どもが次第に疎ましくなる。ある日、部屋に閉じ込めて男の元へ-》
 撮影は部屋の一角から淡々と行った。音楽もない。「困ったときにヒーローが助けてくれるなんて都合のいいことは、現実では起きない」とドラマ性も排除した。そうすることで映画の延長線上に現実を結びつけた。

 「子宮に沈める」というタイトルには、完璧であるべきだという“母性”への幻想が、母親を閉じ込めて社会から孤立させる-という意味を込めた。

 「挑発的で公開前から批判もされたが、いろいろな意見が交わされるきっかけになった」

 《シーン(4)=弟は2歳の誕生日に動かなくなる。3歳の姉は調味料を食べて帰りを待つ。行政職員が訪ねてきたのか、何度もインターホンが鳴るが…》

 映画は、姉弟が遺体で発見された事件とは違う結末になっている。母親が帰ってくるのだ。

 その母親が窓から青空を見上げるラストシーンは「どんなに孤立しても同じ空でつながっている」という母子たちへのメッセージでもあるという。

 緒方さんは今夏、家族旅行をし、妹の子を乗せたベビーカーを駅で押した。エレベーターが見つからず構内をうろうろ。子どもが泣きだして周囲に気を使う。あっという間に疲弊した。

 当事者が現状を訴えても、縁のない人には響きにくい。緒方さんは独身。「子育ての苦労なんて知ったこっちゃなかった僕が描くことに意味があると思うんです」

 ◇「上」は11月30日付に掲載しました。11月から東京で上映が始まり、大阪でも公開予定。問い合わせはメール(info@paranoidkitchen.com)で。

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 ●母子家庭の困窮も背景に

 母子家庭の経済的困窮も事件の背景にあった。厚生労働省が2011年11月に実施した全国母子世帯等調査によると、母子世帯は約123万8000で、06年の前回調査より約8万7000増えた。父子は約1万8000減の約22万3000世帯。調査対象となった1648世帯の平均年収は約291万円で、子どものいる全世帯(約658万円)の半分以下。貯蓄は50万円未満が47.7%と最多だった。

 養育費は「受けたことがない」が60.7%で「受けたことがある」(15.8%)「現在も受けている」(19.7%)を大きく上回った。保育所が利用できない土日や夜間の就業ができない、子どもの急病で欠勤したりするから仕事が見つかりにくい―など就労環境も厳しい。

=2013/12/07付 西日本新聞朝刊=

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