「〇〇富士」世界中に 通称含め400超 日系移民にも心のふるさと

友好紙

 「最近知ったんですが、私の故郷の群馬県にも富士山があるんです。富士山ってどこにでもあるんですか」。浜松市内の主婦から、そんな疑問が中日新聞東海本社(浜松市)の「Your Scoop みんなの『?』取材班」(ユースク取材班)に届いた。いやいや、そびえたつのは静岡と山梨ですよね…と考えるのは拙速だった。調べてみると、富士と名の付く山は日本中、いや世界中にあった。

 記者は浜松生まれだが、富士山に登ったことがない。取材を機に、富士登山に挑むことにした。昨年12月のある晴れた日。意気込んで一歩を踏み出す。竹林を抜けると、10分もかからずに頂上に着いた。息は当然、上がっていない。

 「ここは『ふじさん』じゃなくて『ふじやま』。今は木が茂って見えないけれど、大昔は山からも静岡の富士山が見えたって聞くよ」。麓に住む漁師加藤和市さん(73)は事もなげに話した。

 実は、山があるのは三河湾に浮かぶ佐久島(愛知県西尾市)。標高は31メートルで、人工の山を除けばおそらく日本一低い「富士」だ。群馬県の桐生市にあるという富士山も、読み方はふじやま。ただ、どちらの山頂にも富士山信仰を伝える浅間(せんげん)神社があり、「本家」の富士山とつながっている。

 富士は一体、いくつあるのか。日本地図センター相談役の田代博さん(69)は「富士は昔から、あやかりたい存在で、いわゆる『ふるさと富士』は各地にある。○○富士と通称で呼ばれているものも含めれば、400以上」と解説する。

 有名なのは、薩摩(さつま)富士(開聞岳・鹿児島県)や蝦夷(えぞ)富士(羊蹄山(ようていざん)・北海道)。円すいで、形が似ているものが多い。田代さんはさらに「海外にも60ほどある」と付け加える。「富士は離れれば離れるほど、望郷の念をかきたてる。背景には日本の歴史も絡んできます」

 日本の反対側、ブラジル・レジストロ市。ヴォトゥポカ山(416メートル)は、近くの川の名前から「リベイラ富士」とも呼ばれてきた。名付けたのは、100年前に海を渡った日系移民たちだ。

 戦後に埼玉県から13歳で親と渡航し、今も山の近くに住む福沢一興さん(79)は、その名を知った日のことを今もよく覚えている。茶摘みを手伝っているとき、「見よ東海の空明けて」と戦前の唱歌を口ずさんでいた50代の女性が教えてくれた。歌は「そびゆる富士の姿こそ」と続く。

 レジストロは日系人が一から切り開き、茶栽培も始めた。「最初は、あんな小っちゃいのが富士か、って思いましたけどね。でも、初期の移民たちにとっては日本を思い出すシンボルでした」

 福沢さんも農業を営みながら長年、眺めているうちに愛着が湧いてきた。一年中、緑が濃く季節感はあまりない。でも、天気が悪くて姿が見えないとがっかりし、よく見える日はうれしくて「写真でも撮ろうかな」と思う。「街から戻ってきてリベイラ富士が見えると、帰ってきたな、と感じる。いつ見てもいい」

 人々を魅了し、魂の中にそびえたつ山。ユースク取材班として認定したい。富士は日本一の、いや世界一の山である-。

 (中日新聞東海本社・内田淳二)

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