阿蘇の草原 存続の危機 高齢化、担い手不足深刻 奉仕や募金 九州全体で

阿蘇の草原で野菜栽培の肥料となるススキなどの草を集める農家やボランティア=9日、熊本県阿蘇市一の宮町 拡大

阿蘇の草原で野菜栽培の肥料となるススキなどの草を集める農家やボランティア=9日、熊本県阿蘇市一の宮町

熊本県外では2回目となる福岡市で開かれたシンポジウム

 九州屈指の観光地、熊本・阿蘇は草原の景観が魅力の一つだ。多様な動植物を育み、水源ともなり、草は牛の餌や野菜の肥料に利用される。だが、野焼きなど人の手をかけないと維持できず、住民の高齢化もあって担い手の確保が難しくなっている。ボランティアや募金など九州全体の力で「宝」を守るべき時期に来ている。

 「阿蘇の草原が危機にあることを福岡の皆さんに知ってほしい」。3日に福岡市であった「阿蘇千年の草原再生シンポジウム」。主催した「阿蘇草原再生協議会」の高橋佳孝会長(近畿中国四国農業研究センター上席研究員)は訴えた。

 熊本県や阿蘇市など7市町村、住民、有識者らでつくる協議会が、熊本県外でシンポを開くのは2回目。地元だけでは草原維持が難しくなったため、広く支援を募る狙いがある。

 「放置すると森林になる。毎年の野焼き、採草、牛の放牧で維持してきた」。だが、阿蘇の畜産農家は1998年の1846戸から2011年は884戸に半減。牛肉輸入自由化など厳しい環境が背景にある。枯れ草を焼く春の野焼きと、草を刈り防火帯を作る秋の輪地(わち)切りには延べ1万4千人が必要だ。

 地元の担い手不足が深刻化する中、これまではボランティアが支援してきた。募集を始めた1998年度の延べ110人から、2012年度は2300人に増えた。ボランティアを受け付ける公益財団法人阿蘇グリーンストック(阿蘇市)には約800人が登録。5割が県内、3割が福岡県の人という。

 シンポの座談会では、ボランティア歴10年の福岡市の元大学教授、池上龍太郎さん(73)が登壇。「草を刈った跡を見ると達成感がある。観光で楽しませてもらった阿蘇に恩返しをしている」と語った。

 ただ、阿蘇に160ある牧野(ぼくや)組合(草の利用権を持つ農家などの組合)の半数が後継者不足などで「10年先までに野焼きができなくなる」とされる。ボランティアだけでなく、後継者確保の支援も求められる。

 阿蘇市一の宮町にある草原を訪ねた。町古閑(まちこが)牧野組合の市原啓吉組合長(63)やボランティアが刈り取られたススキを集めていた。堆肥にして白菜や大根を栽培するのだ。

 市原さんは「草原再生シール生産者の会」(18人)の会長。堆肥で育てたことを示すシールを野菜に貼って地元の直売所で売っており「草の堆肥で作った野菜はおいしい」と胸を張る。観光客が買えば農家を支援できる。「トマトを1個買うと20センチ四方の草原を守れる換算になります」

 阿蘇グリーンストックは野焼きや牛の放牧を支援する「阿蘇草原再生募金」を募っている。畜産農家の牛の購入費に充てる「あか牛オーナー制度」(1口30万円)も設けている。水源や観光地として九州に恩恵をもたらす阿蘇の草原。その環境を守る農家を都市住民らが支える仕組みだ。

 高橋会長は「観光に来てあか牛を食べるのもいい。一緒に『九州の宝』を守りましょう」と呼びかける。阿蘇グリーンストック=0967(35)1110。

    ×      ×

 【ワードBOX】阿蘇の草原

 2万2千ヘクタール。うち1万6千ヘクタールを野焼きで維持する。平安時代の文献にも草原の記述がある。筑後川など6本の1級河川の源流。草原特有の野鳥や昆虫、600種の植物が見られる。ハナシノブ、チョウのオオルリシジミなど貴重な種も。阿蘇の観光客は年間1700万人。野焼きや放牧で草原を維持する農法は5月、世界農業遺産に認定された。


=2013/12/25付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ