【人の縁の物語】<50>佐賀市富士町 合併後も情報細やかに 「幸報」住民つなぐ

住民に「幸報ふじ」を配る佐賀市富士支所の森係長(右) 拡大

住民に「幸報ふじ」を配る佐賀市富士支所の森係長(右)

「幸報ふじ」を制作する地域おこし会社「インビル」の永田さん

 幸せを届けたい-そんな願いを込めた広報紙が、市町村合併で“消えた”町の人たちに愛されている。佐賀市旧富士町の「幸報(こうほう)ふじ」。住民や出身者が作成に携わり、2カ月に1度発行。インターネット全盛時代に、アナログの紙で旧住民の絆を紡ぐ。

 ダム湖での親子カヌー体験、図書館が募る「ふるさとの記憶遺産」の案内…。A3判の紙の表裏に、地域の情報が満載だ。昨年末に完成した最新号を手にした永冨睦さん(80)は「やっぱり地元のことを知りたいからね」とほほえんだ。

 旧富士町は脊振山系の山間部にあり、古湯温泉で知られる自然豊かな地。2005年の市町村合併で佐賀市となり、約4千人いた富士町民は約23万6千人いる佐賀市民の一部となった。

 合併に伴い、月1回配布の「広報ふじ」から、月2回の「市報さが」に変わった。以前のように細かな案内や人物紹介が載らなくなり、旧役場にできた佐賀市富士支所には「町内のことが分からない」「役所を遠く感じる」といった声が寄せられるようになった。

 そこで富士支所総務課係長の森直子さんらが、旧富士町限定の広報紙発行を発案する。その際、身近な情報は地元の人に集めてもらうのが一番と、空き家対策や集落支援に取り組む地場企業「インビル」に作成を委託することにした。

 インターネットで発信する方法もあったが「紙」にこだわった。インビルを営む永田靖智さん(43)は以前、旧富士町にネットを普及させる県の事業に関わった経験がある。富士は高齢化率が35%で接続率は伸びなかった。永田さんは「お年寄りに情報を届けるにはアナログの紙が力を発揮する」と確信していた。

 編集長は福岡市在住で富士出身のライター山口亜祐子さん(39)に。取材や編集は永田さんや住民が担当し、支所の職員有志約40人が仕事の合間に1300世帯へ配達することにした。

 12年7月に創刊。地元のお年寄りに聞いた「じゃがいもまんじゅうの作り方」などを掲載すると、85歳の女性から編集部に手紙が届いた。「インターネットや電子機器にはついていけません。『幸報ふじ』で地域を知り、学ぶ機会を得られます」-その手紙を永田さんは大切にしまっている。

 「平成の大合併」で住民と行政の距離が広がった自治体は少なくない。森さんが配達に出向くと「お茶を飲んでいかんね」「野菜を持っていきなさい」と声をよく掛けられるという。「触れ合いがうれしいですね」。「幸報」が、行政に携わる者の原点も教えてくれている。


=2014/01/21付 西日本新聞朝刊=

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