【こんにちは!あかちゃん 第13部】「保育の質」って何?<4>基準維持し定員増やせ ほか
●基準維持し定員増やせ 鹿児島大法科大学院教授 伊藤 周平さん
《保育は福祉であり、自治体の責任は大きい。求められる役割とは? 社会保障法が専門で鹿児島大法科大学院教授の伊藤周平さんに聞いた》
-法的な位置づけは?
「児童福祉法は市町村に、保育に欠ける子すべてを保育所で保育する義務を課しています。保育所をつくり、保育士などの人材確保まで含みます」
-だが待機児童が増えている。義務が果たされていない。
「だから昨年、首都圏で住民による集団異議申し立てが起きたのです。入所をめぐってライバルだった親が団結した画期的な出来事。運動が拡大すれば、市町村も保育所を増設、整備しなければならなくなる。現地では定員が拡大しました。やればできるのに怠ってきたということです」
-2015年度に保育の新制度がスタートします。
「保育所と、それ以外の施設(認定こども園、小規模保育など)に分けられます。保育所は現在と同じく市町村に申し込みますが、それ以外は利用者と事業者の直接契約に変わります。自治体の関与が限定され、保育料の滞納があれば退所、障害を理由に敬遠されることもあるかもしれません」
-潜在的に30万人以上ともいわれる待機児童の対策は?
「新制度では、預けられる親の要件がパートや求職中にもさらに拡大されま
すが、定員が増えないと意味がない。自治体は責任をもって認可保育所を整備すべきです。ただ、面積などの最低基準を維持し、質を守る責任もあります。消費増税分の一部を少子化対策に使うとされている。それで待機児童が解消されないなら国民は怒るでしょう」
●金銭給付より施設整備 大分大福祉科学研究センター教授 椋野 美智子さん
《少子化対策における自治体の役割も考えたい。編著に「世界の保育保障」がある大分大福祉科学研究センター教授の椋野美智子さんに聞いた》
-少子化の原因は?
「女性の就業意欲が高まる中で『男性が妻子を養い、妻が家族をケアする』という会社と家族に頼った1970年代の社会保障モデルから脱皮できずにいたこと。その結果、女性に仕事と子育ての二者択一を迫り、結婚・出産をためらわせた。子育て支援制度が整えば改善すると考えられます」
-どんな支援が必要ですか。
「これまでは金銭給付の拡大が政治的に繰り返されてきました。財源さえ確保できれば、容易で迅速にできるからです。専門家の間では、保育所の整備といったサービスの充実の方が効果が高いとの意見で一致しています」
-横浜市は全国最多だった待機児童を昨年春の時点でゼロにしました。自治体によって取り組みに差があります。
「自治体トップの本気度の差です。横浜市長は熱意があり、認可保育所運営への民間の参入を促すなどして迅速に進めたようです。住民側が保育所の必要性を自治体に訴え続けることも大事です」
-保護者にとっては保育料の負担も大きいですね。
「国の基準による利用者負担の水準は4割。医療の15%、介護の7%に比べて極めて高くなっています。育児休業給付に事業主や被用者が拠出するような財源確保を保育でも検討していいのでは。それに、子育ての経済的負担として大きいのは、衣食住や教育にかかる直接費用より、仕事を辞めて所得を失う機会費用です。保育の量や質が整っても、親が働き続けられる職場環境でなければ意味がありません。自治体には、そうした環境づくりの推進も求められています」
=2014/01/24付 西日本新聞朝刊=
=2014/01/24付 西日本新聞朝刊=