農林漁業の行方考える 座談会<上>

山下惣一さん 拡大

山下惣一さん

佐藤清吾さん 結城登美雄さん

 ●経済成長 幸せなのか・山下 ●自由貿易で漁業衰退・佐藤 ●変わる若者 自然回帰・結城 
 農産物の完全自由化もありうる環太平洋連携協定(TPP)交渉、国が廃止方針を打ち出したコメの生産調整(減反)…。農林漁業を取り巻く環境が揺れている。私たちの暮らしはどう変わるのか。佐賀県唐津市の農民作家・山下惣一さん(77)が、宮城県石巻市の漁師・佐藤清吾さん(72)、仙台市の地域づくりプロデューサー・結城登美雄さん(68)と語り合った。山下さん宅で1月に開かれた座談会の様子を上下2回に分けて紹介する。 (取材協力=生活クラブ生協)

 佐藤 子どものころは生活に必要なものは100%近く自給していた。半農半漁で、戦後の食糧難でも不自由しなかった。

 結城 戦後、満州から山形県の山村に引き揚げた。仙台で働き出して古里に土地を買った。「いざとなれば帰って農業をすればいい」というお守りとして。20年前、新聞で「山に暮らす 海に生きる」という連載を始めた。東北各地で自然に寄り添う暮らしを見た。「半農半漁は貧乏暮らしの象徴」とか、うそだ。

 山下 30歳くらいのころ「自給自足は人類の最も貧しい生活形態である」と大学教授に言われた。「1人の農民が10人分つくれば9人が他の仕事ができ、世の中が発達して便利になる。それが進歩だ」と。でも、成長を追い求め続けた今、生きることに息苦しさを感じている人は多い。どこまで成長しないといけないのか。成長で幸せになれるんだろうか、という疑問がつきまとうね。

 佐藤 高度成長で農家の次男、三男が都会に吸い上げられた。そして後継ぎがいなくなった。

 山下 国は今、農地中間管理機構をつくって農地まで取り上げようとしている。地方から収奪しながら日本は繁栄してきた。

 結城 僕の古里が過疎集落になった理由に当てにしていた林業が1964年の輸入全面自由化によって木材の値段が崩れたことがある。8年前に秋田のおじいさんと話をした。樹齢40年の杉の丸太100本売ったら、一本900円だったって。「だめだ」って。

 佐藤 漁業が衰退した原因を「漁協や漁民が漁業権を独占してきたからだ」と批判されている。「だから企業を参入させろ」という論理なんだけども。国策の自由貿易で安い魚を輸入するから国内の漁業者は割に合わなくて廃業しているのに。

 さらに、スーパーが100円で売る魚は40年前まで浜値は50円近くしたが今は20円。流通業界は自分たちの利益を確保するために売り値を先に決めて、買いたたく。漁師のコストは無視されるんですよ。

 山下 コメの輸入自由化(部分開放、95年開始)のとき、多くの消費者が賛成だったんだからね。TPPだってそうでしょう? 牛丼が安くなるって喜んでいる。自分たちが困ると思っていないんだよね。

 結城 人々の暮らしが「作る」部分がなくなり「買う」だけになった。誰がどこで作っているか分からないけれど「安ければ便利だね」とか。そうなったときに、消費者が圧倒的な資本に組織化された。

 山下 台所の産業化だよね。

 結城 それでも、東日本大震災後、若い人たちの意識が変わってきている。「食べ物って、種をまいたり、草取ったり自然に働きかけないとできないですよね」とか言うんです。大人は「どこが安いか、安全か」としか言わない。でも若者たちは「やばいですよね。誰かがやらないと食い物ないですよね」と言い始めた。農漁村に通ったり住んだりする動きが出ている。一つの変化だと思うんですよ。

 ●山下 惣一さん

 中学卒業後、農業をしながら文筆活動を続ける。近著に「市民皆農」(共著)。

 ●佐藤 清吾さん

 宮城県漁協北上町十三浜支所運営委員長。ワカメやホタテを養殖している。

 ●結城 登美雄さん

 「地元学」を提唱し東北の農漁村600集落を歩いた。


=2014/02/05付 西日本新聞朝刊=

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