【神田伯山×いとうせいこう対談】リモートは社会を変えるか

友好紙

 新型コロナウイルス感染拡大の予防のため、人々に定着してきた「ディスタンス」や「リモート」の習慣は社会をどう変えるのか。今最もチケットが取れないといわれる講談師で、動画サイトYouTubeなどでも講談の魅力を積極的に配信する神田伯山さんと、文学や舞台、ラップなどマルチに活躍するいとうせいこうさんが、得意分野の芸能を中心に語り合った。

 -それぞれの活動でコロナ禍を感じるところは?

 伯山 今は寄席に残念ながら年配の方が来なくなっちゃってて客席が若返っているんですよ。30代、40代みたいな。昔は60代、70代がメインだったんですけど。出演者の顔触れも若返っている気がします。若い演者じゃないと若い人は来ないので。私が出る寄席しか知りませんが。

 いとう コロナという意味と、伯山効果っていう意味があるでしょ。

 伯山 でもね、僕以外の若手の演者でも入りが若い人中心みたいです。僕は講談師なんですけど落語芸術協会に入っています。年配の落語家さんも、怖いので寄席へ行きたくないって言う人もいる。コロナの影響が出てますね。

 いとう テレビの世界も同じことが起きていて、若い芸人が使われるようになっている。ひとつには、テレビ局が、ギャラが少なくてよく動いてくれる人を選ぶのかも。彼らの魅力も分かるけど、それ以上に、システム上の問題がある。芸人の光浦靖子さんがいいコラムを書いてて、自分は外国にしばらくいようと思ってたけどコロナで行けなくなっちゃったっていうことなんだけど、その根本にあるのは「私のいるとこ、もうなさそう」。

 伯山 読みました。あの世代(2019年のM-1グランプリで3位になった「ぺこぱ」などの「お笑い第七世代」)がテレビで台頭してきて、誰かが抜けなきゃいけないっていう時に、光浦さんが「私、必要とされてないのかな」って。面白かったのは「何十年もこの業界にいるけど、どう努力していいか分からない」。確かにと思って。テレビって消費されるので。

 いとう 光浦さんが得意な手芸なんかの趣味もきちんと芸になるんだよね。そういうのがない人はいつでも取り換えられる。

 -ステイホームは良かった?

 伯山 これまでは自分の稽古時間も満足に取れずに、悶々(もんもん)としてたんですよ。メディアに打って出るのはいいけど、講談を広めるためなのに、僕自身の稽古ができてない。コロナになってから、自分のいいペースでできるようになって。今精神安定してるんです。自分を見つめ直す本当にいい機会だった。

 いとう 僕は、たまたま2019年の年末くらいに「来年は本をよく読もう」と決めた。水俣病を追っ掛けてた作家の石牟礼道子さんの全集はすべて読もうと。風呂に入る前の30分間は必ず50ページ読まないと入れないようにして。

 伯山 修行僧のように。

 いとう 修行僧のように夜は夜で全集、昼は昼で出先で別の読書があるって感じにしてた。ステイホームしなければ、一人の作家をじっと追うとかできなかった。

 伯山 確かに。ステイホーム期間って、時間をバーンって全ての大人が渡された感じありますよね。

 いとう 変な言い方だけど、でっかい夏休みをもらったって思った方がいいんじゃないか、って人にはよく言ってました。

 伯山 ラジオか何かで(漫才コンビ)中川家の礼二さんが言ってたのは、「『男はつらいよ』全部見ちゃった」。

 いとう 時間はアンバランスだし、不全感があってみんないらいらしてると思う。寅さんの人情っていうこと、俺ね、昨日も考えてね。人情とあと正義。これがほんとに旗色悪いの、今。やっぱお金がないと駄目でしょ、って言われる世の中になっちゃって。だけどコロナになってみたら看護師さんてすごいよね、っていうことになってくる。おかずを分け合える近所っていいよね、ってなってきてるじゃない。石牟礼さんが終わったんで、今度は足尾銅山事件について読書してるんだけど、田中正造っていう明治の立派な政治家がどんどん闘う。正義のためにだけ命を懸けるんですよ。これ講談だなって。

 伯山 精神的には講談ですね。

 いとう 結局涙を流してる客の前で見事に田中正造を語れるのは、講談ていうか特に伯山さんだと思ったし、それかラップだけなんだよ、社会を扱える芸能は。

 伯山 伯山かラップか。

 いとう そう、伯山かラップかなんだよ。

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