【傾聴記】多世代の共助住宅 鹿児島市 「お互いさま」精神で

「ナガヤタワー」2階の広々とした共用リビングでくつろぐ入居者たち 拡大

「ナガヤタワー」2階の広々とした共用リビングでくつろぐ入居者たち

 共用リビングでおしゃべりしたり、仕切りのないバルコニーを掃除し合ったり…。多様な世代がお互いに助け合う「長屋」暮らしを現代によみがえらせようとしている賃貸住宅が、鹿児島市上之園町にあると聞いて訪ねてみた。

 JR鹿児島中央駅から徒歩5分。地上6階建ての「ナガヤタワー」は昨年4月の完成から間もなく1年。隣接する有床診療所「堂園メディカルハウス」の院長、堂園晴彦さん(61)が「血縁によらない共同体が、東日本大震災後の日本社会に必要になる」と建設した。

 モデルにしたのは、マザー・テレサがインドにつくったハンセン病患者の村。軽症者が重症者を、高齢者が他人の子どもを世話するなど、相互扶助で成り立つ共同体だ。

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 ナガヤタワーは、ワンルームから2LDKの37室のほか、共用のリビングや台所、24時間利用可能な風呂もある。現在、9~94歳の22世帯27人が入居。うち12人が65歳以上の高齢者だ。

 家賃は月6万~10万円(共益費込み)。70歳以上は管理費など2万5千円が必要な一方、若者世代は風呂掃除や高齢者のごみ出しなどを引き受ければ家賃が割り引きされる。

 日曜日以外の日中は社会福祉士の北村美樹さん(25)らが常駐。堂園メディカルハウスとの連携もある。このため「1人は不安だが、高齢者施設には入りたくない」という人がついのすみかとして入居するケースも多い。

 随所に住民同士が顔を合わせる工夫がある。各部屋はV字形に配置されて向き合う。バルコニーは各部屋の仕切りがなく、回廊式。月1回の晩ご飯会、映画の上映会や絵手紙教室も開かれ、入居者は自由に参加して交流を深める。

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 こうした仕掛けで、多世代が共に暮らす効果が徐々に見え始めているという。

 例えば、母親と子ども2人のひとり親家庭。3カ月もすると、不登校だった
子どもが学校に行き始め、その子が「ここの人はみんな親切」と話した。堂園さんの次女で事務局長の春衣さん(31)は「親や教師以外の大人に構ってもらえる環境がよかったのでは」と喜ぶ。

 配偶者を亡くし、最期をどう迎えるかを考えたいと話していた80代の入居者は、にぎやかな暮らしで元気を取り戻し、毎日外出するようになった。入居第1号で「長屋のご隠居さん」的存在の会社社長、川崎真俊さん(71)は「20年以上自宅に客を招いたことはなかったが、自慢の家を見せたくて頻繁に人を呼ぶようになった」と笑顔が絶えない。

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 もちろん、長屋暮らしが合わない人もいるし、住民の不満もある。春衣さんは「お金を払えばしてもらって当たり前の時代。『お互いさま』の精神をどう取り戻すか」と頭を悩ませる。北村さんは「ついのすみかとして、希望する最期を話し合いたいが、死をタブー視する意識が強くなかなか本音を話し合えない」との悩みも抱える。

 「建物は誰でも造れるが、相互扶助という精神や文化をどう育てるかが課題。ナガヤタワーは社会的実験であり、成果が出るまで5~10年かかる」と堂園さんは言う。7月には、親元で暮らせない子どもたちと里親が生活する「ファミリーホーム」を開設予定。将来的に児童養護施設を巣立った若者を受け入れる意向もあり、堂園さんらは子どもが起こす変化に大きな期待を寄せる。

 高齢化や核家族化がもたらしたマイナスをプラスに変える一つの手段として、今後を見守り続けたい“実験”だった。

=2014/02/13付 西日本新聞朝刊=

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