博多ロック編<192>詞はラブレターのように

「サンハウス」の作詞担当の柴山=「ぱわぁはうす」で 拡大

「サンハウス」の作詞担当の柴山=「ぱわぁはうす」で

 「サンハウス」のボーカル、柴山俊之は福岡市・天神の福岡ビル内のヤマハ楽器店に入った。自宅から近いここは毎日の周回コースの一つだった。顔パスの常連客。この日はいつものようにレコードを聴くためではなかった。店員に無理な頼みをした。

 「日本語のフォーク、ロック関係の歌詞をすべてコピーして欲しい」

 オリジナルの作詞のために柴山が最初に取った行動だった。作詞の参考にするための資料集めだ。ただ、参考と言っても柴山にとっては逆の効果を狙っての考えがあった。

 「ここに書いてある日本語歌詞にない詞を作るための参考資料。雨が降ってるからあなたに会いたい…なんてヤワな詞は書けないじゃないか」

 1970年前後、すでに「村八分」「頭脳警察」などが日本語ロックに挑戦していた。「ロックは英語だ」「日本語は必要ない」といった「日本語ロック論争」も激しい議論になっていた時代だ。

 これまでにない歌詞。模索と苦悩の日々。柴山のヒントになったのはブルースの歌詞だ。柴山には作詞についての哲学、思想があった。

 「ラブレターの匂(にお)いのしない詞は詞ではない。嘘(うそ)でもいいからなにか必死に言葉を探して相手に自分の気持ちを伝えたい。それがおれの詞だ」

 柴山はノートの切れ端に詞を少しずつ刻んでいく。

 〈俺の身体は黒くて長い〉
〈夜になったらぬけだして〉

 ×   ×

 柴山は自分の永遠のテーマとして3人のブルースシンガーを挙げ、その1人が「ジョン・リー・フッカー」だ。フッカーの曲に「クローリング・キング・スネーク」がある。訳せば「うねるキングスネーク」か。スラングの多い歌詞はこういう1行から始まる。

 〈ああ、俺は地を這(は)う巨大なヘビだ〉

 「巨大なヘビ」のエロス的比喩はいうまでもない。つまり、柴山が参考にしたのはブルースの歌詞に多用される「ダブル・ミーニング(二つの意味)」だ。抑圧された人々が権力者、当局からの目を逃れ、だます反抗や自己解放のレトリックである。

 ブルース、ロックの8ビートは官能、陶酔の鼓動だ。詞もそれにあった表現になるのも必然的な面もあった。

 柴山の歌詞のタイトルは「へびの道」。後に「キング・スネーク・ブルース」として代表曲になる。

 柴山は中学時代からフランスの詩人、ボードレールの卑猥(ひわい)で耽美(たんび)的な詩集『悪の華』を読んでいた。アウトロー志向の強い柴山は自分の詞を秘(ひそ)かに『悪の華』になぞらえていたかもしれない。

 柴山はようやく書き上げたこの詞を恐る恐る作曲担当の鮎川誠に差し出した。

 =敬称略

(田代俊一郎)


=2014/02/17付 西日本新聞夕刊=

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