メディアのあり方 定型記事ではないテーマ設定型の調査報道を

 近年、『週刊文春』と『赤旗』が、重要なスクープを出している。『月刊日本』2月号では、『週刊文春』編集局長の新谷学と『赤旗』日曜版編集長の山本豊彦が対談を行い、話題になった(「これが『スクープ』だ!」)。

 山本は、スクープをとる上で重要なこととして「違和感」を持つことをあげる。『赤旗』は、桜を見る会をめぐる疑惑をスクープし、政局を大きく動かした。山本は「なんで赤旗さんはスクープをとれたんですか」と繰り返し聞かれ、「私たちが桜を見る会に違和感を持ったから」と答えたという。

 一般紙の記者は、定型的な記事を作るための流れ作業のような取材になっている。問題意識を持っても、なかなかそれを深めることができない。記者たちは一様に忙しい。コンプライアンスにも気を付けなければならない。しかし、核心のところには、政治家からネタをもらい、他社に先駆けて報道することがスクープだと思い込んできた事情があるという。

 山本は、この状況を打破すべきだと強調する。実際、現状に違和感を持った市井の人たちから情報提供があり、それを深掘りすることでスクープにつながるケースが増えている。政治家や官僚の顔色を見つつ、権力側から他社に先駆けて情報を得ようとする姿勢を見直すべきだと提言する。

 これに対し、新谷は「親しき仲にもスキャンダル」というフレーズを語る。記者は、政治家などからも、情報を得ようとする。そのためには、本気で取材相手と対峙(たいじ)しなければならない。生半可なアプローチでは、足元を見られてしまう。しかし、重要な目的は、相手と仲良くなることではない。書くことである。「ファクトに基づいて是々非々で書いていく姿勢を大事にして」いると述べる。

 一方、朝日新聞では今春、特別報道部が廃止される。原発事故を追い続けた長期連載「プロメテウスの罠(わな)」を手掛け、除染作業で出た廃棄物を山中に投棄する現場をスクープした「手抜き除染」報道などで、2012年度、13年度の新聞協会賞を受賞した花形部署である。

 この特別報道部でデスクを務めた鮫島浩が、朝日新聞を退社することを公表した。そして、自身のホームページ(SAMEJIMA TIMES)を立ち上げ、大手新聞が抱える問題を自己反省的に追及する連載を始めている。

 鮫島は「新聞記者やめます。あと79日!【文春砲の炸裂(さくれつ)と特別報道部の終幕】」と題した3月14日の記事で、調査報道のあり方を問うている。鮫島が影響を受けたのは、週刊文春から朝日新聞社に移籍した松田史朗の存在だったという。松田がこだわったのは「テーマ設定」。読者が知りたいテーマを察知し、ネタを一から掘り起こしていく「テーマ設定型調査報道」が、目指すべき方針として見据えられた。ここに大手新聞社でジャーナリズムが発展するモデルが芽生えていたと、鮫島はいう。しかし、特別報道部は15年の歴史に幕を下ろすことになった。「新聞社のひとつの時代が終わった」

 小田光康は「記者クラブメディアは、なぜ『文春砲』に勝てないか~才能の墓場と化した記者クラブの光景」(論座、3月16日)の中で、記者クラブのあり方に苦言を呈する。

 新聞社に入ってくる新人記者は優秀で、能力も意欲も高い。しかし、記者会見では「文字起こし」のような仕事に時間を取られ、夜討ち朝駆け取材というノルマに追われる。そこで生まれる記事のほとんどは、「短い定型文」だ。「記者クラブでは現場取材の技術と取材に必要な最低限の断片的な知識は身につくが、全体を俯瞰(ふかん)でき、なおかつ実践に即応できるコンピテンス(実践的競争力)に結びつくことはない。」

 取材競争に明け暮れる記者たちは、次第に権力側の情報に群がり、飼いならされる。気づかないうちに上目遣いが身につき、忖度(そんたく)が起動する。この権力とメディアの共犯関係が、安倍長期政権の原動力になったことに、いまメスを入れなければならない。

 愛知県知事リコール署名の偽造をめぐっては、中日新聞と西日本新聞が連携して、見事なスクープを出した。読者が求めているジャーナリズムは、「テーマ設定型調査報道」だろう。新聞の意義とあり方を、前向きに再検討すべき時期にきている。

 (なかじま・たけし=東京工業大教授)

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