【こんにちは!あかちゃん 第14部】「明日の親」を育む<5完>「生教育」で命つないで

精子について説明した紙芝居 拡大

精子について説明した紙芝居

授業に聞き入る子どもたち

 ■新訳男女■ 
 《性教育は避妊や性感染症の予防だけではない。命を次代へつなぐため、生きることそのものを伝える「生教育」だ。その信念の下、手づくりで「いのちの授業」に取り組む女性グループがあると聞き、岐阜県各務原(かがみがはら)市を訪ねた》

 最前列に陣取ってそわそわしている男子、後方で静かに控える女子。市内の福祉センターの一室では、小学3、4年生とその親27組が参加し、NPO法人各務原子ども劇場による「授業」が始まろうとしていた。

 まずは「○×クイズ」で元気にスタートした。二次性徴の話に入ると静まり「ヘンタイ」とちゃかす小さな声が聞こえた。手で目隠しをする男子も。早くも「いやらしい」というイメージが芽生えているのか。

 紙芝居をめくりながら先生役の女性が問いかけた。「1回の射精でどのくらいの精子が出るか知ってるかな」。身構えた私をよそに、一斉に声が上がる。「3億!」「4億!」。今は学校でも習うようだ。

 《授業の大きな狙いは「生まれてきて良かった」と感じてもらうこと。男女の体の違い、性機能の仕組み、性交から出産までを科学的に教えながら「命の奇跡」に触れてもらう》

 「卵子ちゃん、待っててね」「待ってるわ」。毛糸で作った「精子くん」たちが模型の子宮内を駆け上っていく。「3億の精子くんのうち、卵子ちゃんにたどり着けるのは500くらいなんだって」。大きな卵子の絵に切り替わった。取り囲む精子のうち、一つだけが卵子の中へ入った。受精の瞬間だ。

 「もし別の精子くんが入っていたら、みんなとは違う誰かになっていたんだよ。君たちはすごくラッキー。生まれてきて、おめでとう」。固唾(かたず)をのんで見守る子どもたちが目をキラキラさせている。「すごい…」。つぶやきも漏れた。

 3億分の1。いや卵子の側もある。妊娠できるのが月1回の排卵前後5~10日間とすると、確率はもっと低い。そもそも両親が出会わなければ‐と考えるうちに、私にも「命に値する生き方をしているだろうか」との思いがこみ上げてきた。

 《成長とともに、自分と周囲を比べて劣等感を膨らませる子どもたち。親もまた「できないこと」に気を取られてしまう。生まれたときはそれだけでうれしかったのに。授業は双方の心を原点に返してくれる》

 終了後、感想を聞いてみた。橋本采奈さん(10)は「ちょっと恥ずかしかったけど、おなかで赤ちゃんが成長する話が面白かった」。「性教育は早いかな」と考えていた母親の麻衣さん(35)は「純粋に学んでくれたみたい。この子のいいところを見つけて、ありのままを受け入れる親になりたい」と話した。

 会社員の男性(38)は息子(9)の反応にハラハラしていた様子。「言いづらいことを正しく教えてくれてよかった。自分も男親としてちゃんと答えられるようにしようと思います」

 授業をつくる9人のメンバーも、それぞれ悩みながら子育てをするお母さん。幼児から高校生まで幅広く相手にする授業で何をどう教えるか、常に話し合っている。劇場理事長の古川明美さん(47)は「性を語り合える人間関係を築くのは幼児期からの積み重ねで、3、4年生でも遅いくらい。『私はどうやって生まれたの』と聞かれた時がチャンスです」と語る。

 「小学生に性交まで教えるのはどうか」という意見もあるだろう。だが、先入観のない真っ白な心は「命の奇跡」を素直に受け止めていた。会場を後にする子どもたちの表情が、それを証明していた。

 =おわり


=2014/02/22付 西日本新聞朝刊=

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