TPP交渉の行方は 東大・鈴木宣弘教授に聞く 米の強硬策で難航 日本さらなる譲歩の恐れも

東京大学大学院鈴木宣弘教授 拡大

東京大学大学院鈴木宣弘教授

 2月の閣僚会合の合意に失敗した環太平洋連携協定(TPP)交渉。太平洋沿いに位置する12カ国で、食と農水産業をはじめ、幅広い分野の物品・サービス貿易に関わるルールを大きく変えようという試みだが、一部には、11月の米国の中間選挙が終わるまで交渉は進まず、その後「漂流」するといった見方もある。「過去の貿易交渉で、事態が急展開した事例は多々あり、楽観できない」と話す、国際貿易交渉に詳しい東京大大学院の鈴木宣弘教授(農業経済学)に、交渉の今と今後を聞いた。

 ‐参加国の中でも、日本と米国の協議が難航しているのが停滞の理由とされている。米国内の状況は。

 「業界の突き上げが厳しく、自動車、砂糖、乳製品の関税は譲れないし、医薬品でも妥協できない。オバマ大統領の与党、民主党の有力支持母体の環境団体も反発し、『イルカ漁をやめるまで日本をTPPに入れるな』とまで言っている。オバマ政権にとっては、中間選挙前にいい形で妥結したらプラスだが、不十分な形で終われば、逆に支持基盤の業界や環境団体の反発を受け、選挙が戦えない」

 ‐米国議会はどうか。

 「オバマ政権にTPPを進める一括交渉権限を与え、議会は賛否を決めるだけという『ファストトラック』の付与に、与党議員の3分の2以上が反対。日本では石破茂自民党幹事長に当たる与党代表でさえ、公然と大統領にTPPの一括交渉権限を与えないと明言している。これが得られなければ、米国政府が合意しても議会で変更要求が噴出して収拾がつかなくなる可能性が高い。だから議会の支持を得やすくしようと、TPP交渉相手国に対し、より強硬な主張をしている」

 ■関税問題だけでなく

 ‐それが交渉がもつれる理由なのか。

 「米国は、米国企業に対する一切の不利益と差別を排除することを至上命令として各国に制度の廃止や改変を迫り、実質的に国有企業を認めない▽特許を強化し安い薬を製造させない▽喫煙を抑制しようとする広告には損害賠償させる‐といった要求を一方的に押しつけている。まったく妥協の余地を示さない米国の姿勢に、日本だけでなく、各国とも応じられないのだ」

 ‐非は主に米国の側にある、と。

 「当初から指摘されてきた『米国の企業利益のために邪魔なものは、命や健康を守る仕組みでも一切許さない』というTPPの本質が露骨に現れている。ベトナムやマレーシア、オーストラリアの根強い反発は、このような国民の命や健康、暮らしにかかわる重大問題に根ざしている。それは日本にも降りかかってくる問題として、国民は深刻に受け止めるべきだ。決して日米の関税問題だけが解決すれば終わり、ではない」

 ■首相“英断”の可能性

 ‐日本が交渉を有利に進められる見込みはあるか。

 「取引する材料がない。軽自動車の税金の引き上げ、がん保険の取り扱い、牛海綿状脳症(BSE)に関する米国産牛肉の輸入条件緩和とか、すでに2国間の協議で、守ると決議した国益を自主的に譲り渡している。米国の自動車関税も、半永久的な猶予期間(25~30年後に日本市場での米国車のシェアが低かったら撤廃しない)を容認した。国会決議を無視して、あれもこれも譲りますと、攻めるタマをすべて出しているから、これだけは勘弁してと言っても、さらに譲らされるだけ。交渉になっておらず、本来なら離脱すべき段階に来ているといっていい」

 ‐安倍晋三首相は2月27日の衆院予算委員会で「いつまでにと期限を切るべきではない。交渉で足元を見られる危険性がある」と答弁したが、今後の行方は。

 「4月のオバマ大統領訪日時の決着可能性についてある閣僚は『総理に牛肉、豚肉、チーズの関税がどうだという議論をしてもらうわけがない』と発言。訪日に合わせて、安倍首相の最終決断で決着というシナリオが、間に合うはずがないことを示唆している」

 「だが、自身が最終決断する美学を重視するのが安倍首相。米国が各国に一方的な譲歩を迫り続ける中で“英断”を下す可能性はある。さらなる譲歩を受け入れてTPP交渉を妥結させてしまったら、悪夢を見たでは済まされない」


=2014/03/26付 西日本新聞朝刊=

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