性同一性障害の男性、職場でカミングアウトしたら…

 「会社でカミングアウト(告白)をしてから、ずっと窮屈な思いをしました」。信濃毎日新聞の双方向報道「声のチカラ」取材班に、長野県松本市に住む性同一性障害の風見優さん(51)=仮名=が声を寄せた。戸籍上の性別は男性だが性自認は女性。上司に打ち明けたが、職場で対応は取られず心ないことを言われ、理解を得られないまま5月に退職したという。性的少数者に配慮した職場環境を整えるためには何が必要か。風見さんや当事者団体などに取材した。

 長年、男性として生きづらさを抱えてきた風見さん。3年ほど前に東京に出張した際、ゲイバーなどが集まる新宿2丁目を訪れたのが性自認に気付くきっかけとなったという。2丁目で悩みを打ち明け合うようになり、当事者の仲間に自分のことを知らせようと女装した自撮りの写真を会員制交流サイト(SNS)に投稿。間もなく社内でうわさになった。2019年春、男性上司から事情を説明するよう求められ、「隠しておけない」とカミングアウトした。

周囲の理解得られず、精神的に追い詰められ

 同年7月、総務部門の管理職らにも性自認を伝えた。8月に職場で性的少数者への理解を広めてほしいと、部課長がLGBTQ(性的少数者)を学ぶ研修や、社員への啓発を要望した。だが、男性責任者は「検討する」と答えたきり、その後の対応は取られなかったという。

 約3カ月後、風見さんは自分の在りたい姿を職場の人にも知ってほしいと、同僚との私的な飲み会にスカート姿で参加した。既にうわさになっていたため、当日の反応は薄かったが、翌週、総務部門の責任者に呼び出された。「女装して飲み会に出たらしいね」。さらに「みんながびっくりするからそういう格好はしないで。こんな田舎の会社で(理解が)浸透するには10年かかる」と言われた。

 同僚は素っ気ない態度に変わった。社外の人と接する仕事から外され、出張も行けなくなった。SNSを見た上司から内容をたびたび注意され、精神的に追い詰められた。

ソジハラやアウティング、防止を義務化

 会社の対応に問題はなかったか。記者は風見さんの同意を得て、会社に電話と書面で取材を申し込んだ。広報担当者は「本人だけでなく周囲にも影響があるので回答は控えたい」。ただ、性自認などを巡るハラスメント防止策を強化する準備は進めているとした。

 性自認や性的指向を巡る職場などでの差別的言動や行為は「SOGIハラスメント(ソジハラ)」と呼ばれる。全国の当事者や支援団体でつくる「LGBT法連合会」(東京)事務局長代理の下平武さん(28)は「本人が啓発を求めたのに会社がやらなかったとすれば問題がある」と話す。

 スカートをはいて私的な飲み会に参加するのを注意するのも「性自認に沿った服装をするのを妨げている」と指摘。社外の人と接しない業務に変えるのもソジハラに当たる可能性があるとする。

 昨年6月施行のパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)では、ソジハラや本人の同意を得ずに性的指向などを他人に広める「アウティング」はパワハラの一部となった。施行と同時に大企業に対し防止を義務化。中小企業にも22年4月から適用される。

 長野労働局(長野市)は法改正後、ソジハラなどの相談は把握していないというが「性的少数者の存在がより一般的になってくると、相談が出てくるのではないか」(雇用環境・均等室)とみる。

 性的少数者らでつくる任意団体「レインボーフェローズナガノ」(松本市)には「性自認や性的指向を職場で知られたら、解雇されるかもしれない」といった相談が寄せられている。風見さんは「職場の同僚の理解促進が急務だ」とし、今後、性的少数者の体験を広く伝える活動をしたいと考えている。

(信濃毎日新聞・藤田沙織)

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