高市早苗の「変節」 「わきまえる女」強いる男性社会のリアリズム【中島岳志さん寄稿】

 自民党総裁選が続く中、高市早苗衆議院議員への注目が高まっている。つい数カ月前まで、「総理大臣にしたい人」調査ではランク外の下位だったのが、最近の各種調査で急上昇し、インターネット上では、主に安倍前首相の支持者から熱狂的な声援を受けている。

 高市が今月出版した著書『美しく、強く、成長する国へ。 私の「日本経済強靭(きょうじん)化計画」』(WAC)では、安倍路線の継承を強く打ち出している。「サナエノミクス」は「ニュー・アベノミクス」であると明言し、「優れた祖先のDNAを受け継ぐ日本人の素晴らしさ」を誇示する。憲法改正には賛成。選択的夫婦別姓には反対。経済政策から価値観の問題に至るまで、われこそが安倍の後継者であると言わんばかりの主張が並んでいる。

 北原みのりは「高市早苗氏の意外な過去にフェミニストも震えた 総理の座を狙う過程で何があったのか」(AERAdot 9月9日配信)の中で、若き日の高市が書いた文章に注目する。高市は、第一希望の東京の私立大学に合格したにもかかわらず、親の意向で国立大学に入学した。しかも、「女の子だから一人暮らしはさせられない」と往復6時間の自宅通学を余儀なくされた。

 しかし、高市は持ち前の突破力で、道を切り開いていく。大学卒業後は海外で経験を積み、国際政治評論家としてテレビで活躍。政治家への道を歩みだしていく。

 そんな高市だったが、政治家になると一転して、パターナル(父権的)な価値観へと傾斜していく。北原はここに「わきまえなければ権力に近づくこともできなかった女性たち」の隘路(あいろ)を見る。

 北原は、高市が1992年に出版した『30歳のバースディ その朝、おんなの何かが変わる』(大和出版)の中で、「日本流のバカバカしい会議」のスタイルに異議を述べていることを紹介する。会議が開かれたときには既に根回しが完了しており、議案は決定済みである。会議は儀礼的な意味しか持たない。そんなスタイルに対して「女性は妙に正義感が強いので」「相性が悪い」と反発しているという。

 北原は問いかける。「こういうまっとうないら立ちを文章にしてきた女性が、最も『わきまえる女』になっていく過程に、いったい何があったというの?」

 ジャーナリストの鮫島浩は「『稲田朋美の転向でチャンス到来』高市早苗が安倍支持層からベタ褒めされる本当の理由」(PRESIDENT Online 9月10日配信)の中で、高市の政治家としてのプロセスに注目する。彼女の初当選は93年で、その時は無所属だった。細川内閣の発足により、非自民連立政権に加わり、その後、小沢一郎が主導する新進党に参加。そして96年に自民党に入党し、今日に至る。

 鮫島は、ここに高市の過剰適応の要因を見いだす。自民党内における新進党出身者に対する風当たりは強かった。タカ派議員の多い清和会に所属した高市は、早く自民党内で地位を確立したいと考え、「復古主義的な政治信条を強めてい」った。「森喜朗内閣では『勝手補佐官』を名乗って不人気の森首相を応援し続けた」

 新進党出身者で女性。世襲議員が多く、かつ男性優位の自民党の中で頭角を現すためには、「わきまえる女」にならなければならない。そんな苦しいリアリズムが、父権的主張への傾斜の背景に見え隠れする。

 6月の論壇時評で取り上げた稲田朋美衆議院議員は、過去に右派的な主張を繰り返しながら、近年、「私は『わきまえない女』でありたい」と発言し、LGBT法案に熱心に取り組んだ。その結果、右派論壇からは「変節した」といわれ、安倍からも遠ざけられる結果となった。自ら首相を目指す姿勢を示しながら、今回の総裁選では、蚊帳の外に置かれている。

 安倍による高市支持と稲田外しは、何をもたらすのか。安倍にとっては、自らの主張にすり寄る者をことさら引き立てることで、求心力の強化を狙っているのだろう。一方、リーダーとしての地位をうかがう女性政治家たちは、有力者への忖度(そんたく)によって、父権的な価値観へと傾斜し、女性の権利主張をトーンダウンさせていく。

 このような構造的な隘路を断ち切らない限り、いくら女性議員が活躍しても、自民党の父権主義は解消されないだろう。総裁選の行方とその後を注視したい。

(なかじま・たけし=東京工業大教授)

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