【教育委員会は変わるか 春日市の現場から】<2>小さな分権から一歩

春日市教育委員会の改革に尽力した工藤一徳さん。退職した今も福岡県内の市町村職員の研修支援に当たる 拡大

春日市教育委員会の改革に尽力した工藤一徳さん。退職した今も福岡県内の市町村職員の研修支援に当たる

 「みんな、ものすごく忙しそうに、いつも下を向いて仕事をしている。そしてどうも元気がない」

 福岡県春日市の元学校教育部長で、現在は県の市町村職員研修所(大野城市)に勤務する工藤一徳さん(61)は13年前、教育委員会に初めて配属された時の違和感を今も鮮明に覚えている。それまでは長く、総務・人事部局に勤務していた。

 職員たちは、分からないことがあれば、すぐに県教委にお伺いを立てる。その半面、相談に訪れる年配の校長への対応は、居丈高で上から目線。公印が押された表紙「鑑文(かがみぶん)」が添付された仰々しい報告、決裁文書がやたら多い。

 「慣例や形式に縛られたガチガチの組織の中で、職員たちは文書作成、伝票処理に追われてアップアップ。やるべき仕事はいっぱいあるのに、もう手いっぱいで、職員たちは耳をふさいでいる状態だった」

 教職員係長として着任した工藤さんの目に、教育委員会という組織はそう映った。

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 学校現場では当時、ゆとり教育が全面実施(2002年)される一方、2学期制、学校選択制、学校評価制度など、新たな課題が押し寄せ、市教委はその判断を迫られていた。

 工藤さんたちは、そうした本来業務に力を傾注させるためにも、日常業務のスリム化が急務と考えた。その第一歩として手掛けたのは権限移譲。教育委員会が握っていた予算執行、原案編成権を02年度から順次、市内の小中学校に移譲していった。00年に地方分権推進一括法が施行されたことも追い風になった。

 「それまでは、学校でボールペン1本買うにも、教育委員会の決裁が必要。校長の県外出張、教員の長期休暇などもそうだった。でも、本当に必要かどうか、私たちより、現場を熟知しているのは校長ですから」。学校管理規則を改正、校長権限を強化し、上限金額(1校あたり年間2千万~3千万円)を定めた上で予算編成、執行作業を学校に任せた。

 学校側からは「事務作業が増える」、財政担当者からは「予算の乱用」を懸念する声もあったが、杞憂(きゆう)だった。工藤さんは「学校自らが予算を考えることは、より良い学校づくりへの一歩であり、責任も生じる。自律、コスト意識が芽生え、個性ある学校づくりにつながった」と振り返る。

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 国、県、市、学校が、それぞれ本来やるべき業務は何なのか。そんな素朴な問い掛けから始まった改革は、05年度からのコミュニティ・スクール(CS)制度の導入にもつながった。

 春日市では親の転勤に伴う児童生徒の転入出が多く、市教委では新年度、学級編成作業に追われる。CSには、そうした地域事情も踏まえ、新旧住民を巻き込んだ学校づくりを進める狙いがある。それは、教委事務局(職員組織)の意識改革運動を、学校や地域全体に広げる試みでもあった。

 学力上位で知られるフィンランドの教育改革は、国の関与を縮小し、授業時間数や学級編成などについて、自治体や学校の裁量権を拡大した。春日市の教育改革も同じ、分権の流れの中にある。だが、日本が今、向かおうとしている教育改革はこの対極にある。

 与党がまとめた制度改革案について、工藤さんは「私たちが目指した改革は、教委と学校のタテの関係(指揮命令)を、ヨコ(支援)の関係に変えていこうとするものだったが、改革案はタテ系列を強化しようとする発想だ。どうなんでしょうね」と、複雑な面持ちだった。


=2014/04/08付 西日本新聞朝刊=

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