【こんにちは!あかちゃん 第16部】シニア世代の役割とは<1>遠距離育児「孫のため」

土屋幹さんの父親の稲田潮さん(左)と母親のななみさん(右)。保育所に通う孫2人を迎えに来た 拡大

土屋幹さんの父親の稲田潮さん(左)と母親のななみさん(右)。保育所に通う孫2人を迎えに来た

 深夜に電話が鳴った。静岡市の太田佳代子さん(64)がいぶかしげに受話器を取る。「助けてください」。福岡市に住む次男(34)の妻からだった。切羽詰まった声に、いてもたってもいられなくなった。

 3歳の孫が気管支炎をこじらせ、1週間ほど自宅で療養することになったという。次男夫婦は共働きで、休めてもせいぜい1日か2日。いつもなら近くに住んで支援してくれる妻方の親も急用で都合が付かなかった。

 初めてのSOSに「こういうときこそ役立ちたい」と翌日、飛行機に飛び乗った。まだ現役で働いている夫は単身赴任中だったので、1人で福岡へ。6日間、付きっきりで看病した。

 その間、時間を有効に使い、協力しながら仕事と育児を両立している次男夫婦の暮らしぶりを目の当たりにした。一方、自身は長男を出産した25歳で銀行を退職。35歳で復帰したものの非正規で、ブランクがキャリアに響いた苦い経験がある。

 「頑張っている息子夫婦を助けたい」。これからも遠距離介護ならぬ遠距離育児に通おう。何よりかわいい孫のために。

 たまにしか顔を合わせない孫は、あやしてもなかなか泣きやまない。この時とばかりに残業をしてくる長女(33)夫婦が帰るまで気が休まらない。兵庫から北九州市へ月1回、1週間滞在する遠距離育児を続けてきた時枝さん(67)=仮名=は、ちょっぴり疲れを感じ始めている。

 長女は全国異動のある通信会社に勤めている。第1子のときは延長保育や夜間保育所、子連れ出勤で何とかしのげだ。しかし、第2子が誕生して昨年11月に職場復帰すると行き詰まる。夫が勤める大手メーカーは「育児休業を取るなら出世はない」という職場で、協力が限られるという事情も重なった。

 見かねた時枝さんが遠距離育児を買って出た。とはいえ、兵庫に戻れば近くで暮らす次女夫婦の家に通い、そちらの孫の面倒を見なければならない。往復約3万円かかる交通費の負担も小さくない。

 そんな中、埼玉県でインターネットを介して依頼したベビーシッターによる死体遺棄事件が起きた。人ごととは思えない。「まだ60代」と体にむち打つ。何よりかわいい孫のために。

 「今の私はものすごく恵まれています」。九州大大学院助教の土屋幹さん(36)は母親として3人の子を育てながら、光触媒の研究に打ち込んでいる。実験が深夜に及んでも、近くに住む両親がいるから安心だ。

 そんな環境をつくるために、長男(7)を出産後すぐ、実家のそばに家を買った。両親は自営業をしながら、長男の学童保育と次男(3)、三男(1)の保育所への迎え、食事、入浴と何でもやってくれる。それも土屋さんの家で。自分も公務員の夫も、帰宅さえすればいい状態になっている。

 周囲を見渡すと「恵まれた環境」がないために、仕事を続けられなかった人も少なくない。「私の職場は30代に実績を上げていかないと未来はない。両親には感謝してもしきれません」。その両親も70代が近づいてきた。「何よりかわいい孫のために」という気持ちに、いつまで甘えていられるだろうか…。

    ◇    ◇

 少子化と高齢化が同時に進む日本。今や働く世代3人で高齢者1人を支える「騎馬戦型」の社会となっている。裏返すと、まだまだ元気なシニア世代が、疲弊する子育て世代を支える側に回れば、負担を軽くしてあげられるかもしれない。少子化社会における高齢者が担える役割を考える。


=2014/04/15付 西日本新聞朝刊=

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