「個人情報さらされ怖い」議員の住所公表、どこまで必要?

 中日新聞がこの夏、中部地方6県の女性の国会・地方議員に行ったアンケートで、多くの地方議会が議員の住所を公表していることについて「プライベートがない生活の中で不安を感じる」(40代市議)などの悩みを抱えていることが分かった。取材を進めると、見直しを望む声は、男性議員にもあった。国や一部の議会などでは対応を検討する動きも出ている。地方議員は住民の声に耳を傾け、自治に反映することが期待される身近な存在。住所公表の在り方について考えた。

 ホームページ(HP)で、全議員の住所を番地やマンションの部屋番号まで公表している愛知県大府市議会。同市議の国本礼子さん(46)は「政治活動をすれば、誰かと意見の相違が生まれることはある。個人情報をさらされながら仕事をするのは怖い」と話す。自宅にいる子どもには「知らない電話番号には出ないで」と言い含めている。

 国本さんが議員活動で面会場所に指定するのは、主に市庁舎だ。会員制交流サイト(SNS)やメールでも相談を受ける。「市民との連絡手段を絶ってはならない。ただ、議員も怖いし傷つく。『公人だから』とネットで住所をさらされるのは、違うのではないか」

 同市議の宮下真悟さん(43)は「強制的に公開されるのは疑問がある。公表方法を本人が選べる制度にしてほしい」と話す。

 懸念するのは、意欲のある若手が、立候補に二の足を踏む一因となってしまうことだ。「子育て世代の政治参画を進めなければいけないのに」と語る。

 こうした声を受け大府市議会は6月、住所公表の在り方を見直すべきか、協議を始めた。

北九州市で実際にトラブル

 他の議会では実際にトラブルが起きた例がある。北九州市議の村上聡子さん(56)は2018年、文部科学省の前川喜平元事務次官らの講演会で司会を務めた。インターネット上で批判され、自宅の写真が掲載され、不審者が自宅隣の事務所に来るようになり転居した。「ご近所の方が相談しやすいように住所を公開したのに…。言論封殺だった」

 そもそも多くの地方議会が、議員の住所を公表しているのには理由がある。公職選挙法は「当選人の住所および氏名を告示しなければならない」と規定。総務省選挙部管理課の担当者は「誰が当選したのかを明確に特定するための要件の一つだから公表している」と説明する。範囲については「原則、番地まで。プライバシーの問題は国として検討はしている」という。

 法の趣旨を踏まえた各議会の対応はさまざまだ。中部6県の県庁所在地の市議会について調べてみたところ、HPでは津市と大津市は原則、自宅の住所を番地や部屋番号まで全て掲載していた。岐阜市、福井市、長野市では自宅の代わりに事務所の掲載ができる。また、岐阜市と長野市では、議員によっては住所の掲載を一部にとどめている。一方、名古屋市はHPでは住所を公表せず、窓口などに問い合わせがあった場合には自宅などの所在地を各議員の認めた範囲で伝えているという。

総務省、立候補段階の見直し通知

 当選する前はどうだろう。総務省によると、公選法は立候補者の住所も告示対象としている。「候補者の特定と、有権者が判断する被選挙人の情報として必要と考えている」と担当者。居住の実態があることを明確にしたり、地域代表としての活躍を期待する有権者に判断材料を提供したり、といった意義がありそうだ。

 ただ、有識者からは、住所を公表したくない人にとっては「立候補の支障になりうる」との指摘も。同省は20年7月、立候補者の住所の告示については「市区町村または字まで」とする通知を、都道府県選挙管理委員会に出した。「議員のなり手不足や男女格差を解消するために、見直すべきだと判断した」と担当者は話す。

 名古屋市選管は、HPなどでマンションの部屋番号まで掲載していた立候補者の住所を、行政区までにとどめるように変更した。

 議員の住所公表は不要との立場を取る大正大の江藤俊昭教授(地方政治)は「公開を問い直すことで、政策に基づく関係性を築く契機になるのではないか」と語る。「議員は地域に利益誘導をする代表者として、住民と顔見知りであればいいだけの時代ではない」

 公表の在り方を巡って、国や各地で続く議論。議員の役割とは何か、改めて考える機会でもありそうだ。

 (中日新聞・今村節、松野穂波)

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