成熟した大人の内容でルヴァン杯制す

 カップファイナルは、大人のサッカーが展開されることが多い。理想を追求するのではなく、より現実的という意味でだ。勝ち気にはやるあまり、無謀な攻撃に出て失点する。そのビハインドを取り戻すためにさらにリスクを冒し傷口が広がる。そうなればカップを掲げることはかなわない。勝つことよりも、まず負けないことを優先する。だから最初の1点の価値は、リーグ戦の試合よりも高くなるのではないだろうか。

 埼玉スタジアムで10月30日に行われたルヴァン・カップ決勝。その戦いは、見方によってはスリリングな場面も多くなく、面白みに欠ける試合だったかもしれない。それでも、勝ちと負けでは得られるものがまったく違う一発勝負。タイトルを懸けたカップ戦の決勝という視点から見れば、教科書に載りそうな興味深い内容だった。

 決勝に駒を進めたのは名古屋グランパスとセレッソ大阪。この両チームは3日前の天皇杯準々決勝でも対戦している。このときはセレッソが3―0の快勝。それからわずか中2日の試合はコンディション面からどうなのかという疑問もあった。だからこそ手堅い試合になったのかもしれない。

 試合は前半、立ち上がりから名古屋が攻勢に出て、それをしのいだセレッソが前半の中盤から主導権を奪い返すという展開だった。

 開始11分には名古屋は右サイドのマテウスのクロスを柿谷曜一朗がオーバーヘッドで狙う。しかし、ボールはクロスバーを大きく超える。一方、セレッソも前半33分、浮き球の縦パスに山田寛人が飛び込む。だが、わずかに届かなかった。どちらも形としては「1点もの」のビッグチャンス。とはいえ、どんなに強烈なシュートでも枠内に飛ばなければスコアボードを動かすことはない。「惜しい」で終わるだけだ。

 お互いの堅守が攻撃を上回り、0―0だった前半。この状態をどう動かすか。そんなとき、昔から変わらない方法がある。セットプレーだ。W杯アジア最終予選で日本代表が苦しんでいるのは、セットプレーでの得点が望めないからだろう。

 後半立ち上がりの2分、名古屋は良い時間帯でチャンスを得る。相馬勇紀が自らの突破から得た左CK。相馬自身が右足インスイングで入れたクロスが先制点につながる。ニアサイドで柿谷がDFと競り合ったボールは、頭にかするか、かすらないかでファーサイドに抜けた。そこに大外から、セレッソの丸橋祐介の前にうまく入り込んだのが前田直輝だった。「僕はあまりヘディングで点を取ったことがなかったけど、気持ちで押し込めた」。1トップを任されたテクニックに優れたドリブラーは、体を折りたたむようにして低い体勢からボールを左サイドネットに送り込んだ。今季、シーズン無失点試合を19として、リーグ記録更新中。リーグ戦で先制すれば17勝2分け1敗と圧倒的な勝率を誇る名古屋にとって、先制点は大きな心の支えとなったはずだ。あとはいつものように守備を組織してカウンターからチャンスを狙えばいい。

 後半13分に相馬に変えて守備力のある長沢和輝を投入。それはマッシモ・フィッカデンティ監督の「守り切る」という明確なメッセージだった。稲垣祥、木本恭生に加え長沢が加わったことで3ボランチを形成。さらに後半の飲水タイムを境に本来はCBの木本が最終ラインに加わり5バックとなった。セレッソはボールを保持するものの、パス回しは名古屋の守備組織の外側に限定され、ゴールまでの距離は果てしなく遠い状態だ。

 攻めあぐむセレッソが、最もゴールに迫ったのは後半30分だった。左サイドの原川力のFKがはじき出されたこぼれ球。正面28メートルほどの位置から松田陸が素晴らしい右足シュートを放つ。決まってもおかしくない弾道だったが、ボールは左ポストをかすめて外れた。

 運のないセレッソとは対照的に流れは名古屋に傾いていた。後半34分、交代出場の2人がチャンスをつくる。左サイドでドリブル突破を図る斎藤学のボールは一度は松田陸にクリアされた。そのボールがフォローしていたシュビルツォクに当たる。これがはね返って松田陸に当たり、再びシュヴルツォクに当たってはずんだ。ボールはスルーパスのようにDFライン左のスペースに転がる。これに追い付いたのがシュビルツォク。

 セレッソのGK金鎮鉉(キム・ジンヒョン)はポーランド代表のストライカーにうまく対処した。コースを限定し、左足でシュートをはじき返した。ただ、名古屋にはそれを予測していた選手がいた。いまやJリーグでも最高のミドルシュートの射手といわれる稲垣だ。

 決して簡単なシュートではなかった。浮き球に対し、弾道を浮かせないように膝下をボールにかぶせるようにして放った右足ボレー。ボールはワンバウンドしてGKが伸ばす手の上を抜けてゴールネットに突き刺さった。「あんなに良いボールがこぼれてきたなら自分は決めないといけないし、ああいう舞台でも打つ瞬間は冷静にたたきつけることを意識して打てた」。攻守両面での活躍。稲垣が決勝戦のMVPに輝いたのは当然といえよう。

 それにしても、決勝戦は「フィッカデンティ名古屋」のスタイルにぴたりとはまる展開だった。堅守を基盤とし、セットプレーで先制点を奪い、さらに攻めに出てくる相手にカウンターでとどめを刺す。カップ戦の勝ち方のすべてが凝縮されていた、成熟した大人の内容だった。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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