【こんにちは!あかちゃん 第16部】シニア世代の役割とは<4>孫に「美田」残そうと…

 〈児孫(じそん)のために美田(びでん)を買わず〉
 
 子孫に財産を残すと、依存して安逸な生き方をするから残さない。西郷隆盛の詩にある言葉である。そうはいっても…。

    ¥    ¥

 窓口で腰掛けた80代男性の表情は穏やかだった。「孫に美田を残せれば」。福岡市内にある信託銀行の支店。「教育資金贈与信託」の口座を開設する手続きに訪れたのだった。

 孫が東京の私大に合格したばかり。入学金、授業料、親元を離れての生活費…。年間数百万円かかる上に、高校生と中学生の弟たちも控えている。長男夫婦の家計をおもんぱかり、孫3人の名義でそれぞれ500万円ずつを振り込んだ。

 昨年4月、祖父母らが30歳未満の子や孫、ひ孫へ教育資金を贈与すると、1人当たり1500万円まで贈与税が非課税になる制度が導入された。これを機に教育資金贈与信託は各金融機関のヒット商品となっている。

 中でも4割を超えるシェアを占めるとされる三菱UFJ信託銀行は、1年間で約3万件、約2千億円の契約が成立したという。福岡支店長の佐藤剛さんは「子や孫、そして祖父母と3世代ともに喜ばれています。節税だけでなく、生きているうちに笑顔が見られると、祖父母にとっても渡りに船のようです」。

 ただ、景気対策として導入された非課税制度は、2015年末までの時限措置。佐藤さんは「実績を上げているので継続してくれるのでは」と予想する。

 福岡県久留米市の司法書士、中村優子さんは昨年秋、事務所を訪れた70代男性の周到さに驚かされた。自分名義の土地や建物を子、孫、その配偶者ら7人に、贈与税が非課税となる年間110万円ずつ分割していく不動産登記の相談だった。

 15年1月から、相続税の非課税枠(基礎控除)が「5千万円+1千万円×法定相続人の数」から「3千万円+600万円×法定相続人の数」へ4割ほど縮小される。これまで相続税がかからなかった人でも納めなければならないケースが出る一方、贈与税の課税率は軽減される。

 「家族に少しでも相続税の負担を掛けないよう、生前贈与をしたいお年寄りの相談は後を絶ちません」と中村さん。各地の税理士会や司法書士会が開く相談会も「孫に美田を」という人でにぎわっているという。

 「子どもの教育費くらい親の責任で何とかしなさい-と言われても、今の子育て世代はバブル崩壊後の厳しい家計環境に置かれてきて大変ですよ」。九州北部税理士会調査研究部長の末吉幹久さんはそう指摘する。

 経済財政白書によると、社会保障における生涯受益負担は、60歳以上の場合は支払った分よりプラス4900万円、30代はマイナス1200万円で、その差は6千万円を超える。そこで政府は税と社会保障の一体改革の中で、高度成長期を経て豊かに暮らしてきたシニア世代から子育て世代へ資産移転を誘導しようと、政策税制を打ち出してきた。

 一方で、次代を担う人材の育成を「美田」に頼るばかりでいいのか-という声もある。祖父母が経済的に豊かでなければ孫も教育機会に恵まれない「貧困の連鎖」も断ち切れない。末吉さんは「教育を消費と捉えるから課税が発生する。教育は社会を支える投資と考え、課税しないと割り切る方法もあるのでは」と指摘している。

 ●メモ=教育資金贈与信託

 祖父母らから孫などへ教育資金を贈与する際、贈与税が非課税となる信託商品。2015年末までの時限措置で、30歳未満の孫1人当たり1500万円までの贈与が非課税となる。通常の贈与税の非課税枠は1人当たり年110万円まで。

 祖父母は金融機関に孫名義の口座を開き、贈与分を入金。口座のお金は所定の教育資金として使われたことが分かる領収書を金融機関に提出すれば、孫が随時引き出せる。入学金や授業料など学校に直接払うお金に限られるが、塾や習い事など学校以外の教育費も500万円まで非課税。


=2014/04/18付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ