博多ロック編<201>ロック喫茶の住人
「サンハウス」のボーカルだった柴山俊之のニューアルバム「ギラギラ」に収録されている12曲にはそれぞれ絵がついている。その1枚を描いているのが「愛しのロージー」などの曲で知られる松尾清憲(62)だ。松尾には自分のアルバムジャケットを手描きした作品もある。
「多分、柴山さんはこれを見てつながりのある私に頼んできたのではないか」
松尾と柴山との接点は福岡市・須崎のロック喫茶「ぱわぁはうす」である。
松尾は福岡県直方市生まれ。鞍手高校から九大合成化学科に進学した。中学時代からギターを弾いていた。大学に入るとピアノを買った。独学である。
「作曲に興味がわき、それにはピアノが必要だと思った」
「緋紋章」というロックバンドがあった。これが解散、そこのギターだった中原安弘と2人で「シネマ」というバンドをつくった。ギターとピアノだけの変則バンドだったが、同市・天神のライブハウス「照和」にも出演したことがある。
「フォークは嫌いでスタイリッシュなブリティッシュロック志向でした」
友人から聞いた「ぱわぁはうす」をのぞいた。
「私の志向するロックをやっている場所があるんだと思いました」
下宿先の同市・西新から箱崎に向かう途中にこのロック喫茶があり、ひんぱんに途中下車するようになった。特に店主の田原裕介とは志向が同じだった。「サンハウス」のライブを見たり、柴山たちとも話をしたりするようになった。
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松尾は卒業後、上京した。「シネマ」として都内のライブハウスで演奏した。このとき、「ムーンライダーズ」の鈴木慶一の目にとまり、1980年、鈴木プロデュースによる「グッバイ・ハートブレイク」(ハウスのコーヒーゼリーのCMソング)でデビューする。「シネマ」は数年後、解散するが、松尾は作曲家として多くの曲を提供しているほか、福岡県出身の杉真理などとユニットを組み、バンド活動もしている。アニメ「めぞん一刻」の主題歌「サニー シャイニー モーニング」の歌、作曲も松尾である。
松尾、そして「シネマ」は博多ロック史の中で地元でのバンド活動が短かったこともあり、あまり語られることがない。
「あのロック喫茶では刺激や影響を受けました」
松尾は「ぱわぁはうす」の住人の一人だった。
=敬称略
(田代俊一郎)
=2014/04/28付 西日本新聞夕刊=