コロナ禍で揺らぐ新自由主義、若者は社会を変えるか 斎藤幸平×川口加奈

 スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(18)ら、世界では20代後半から30代のミレニアル世代や10代から20代前半のZ世代と呼ばれる人々が地球温暖化や貧困、人種差別問題などに声を上げ、行動している。一方、日本ではこの世代の言動や活動が社会に反映できていると言えるだろうか。40万部のベストセラー「人新世の『資本論』」(集英社新書)の著者で、大阪市立大大学院准教授の経済思想家、斎藤幸平さん(34)とホームレス支援の認定NPO法人「Homedoor(ホームドア)」理事長の川口加奈さん(30)が日本の現状や展望などを語り合った。

炊き出し体験からホームレス支援
米国の格差に疑問持ちマルクス研究へ 

 -川口さんが支援の活動を始めたきっかけは?

 川口加奈さん(以下、川口) 朝夕の通学時に電車の車窓から見えた(簡易宿泊所が多い大阪市西成区の)あいりん地区、釜ケ崎の様子が気になったのがきっかけです。「日本は豊かな国なのに、どうしてホームレス状態になる人がいるのだろうか」という疑問が湧いて。調べて炊き出しに参加したのが14歳の時でした。1回の参加で終わりそうになったんですが、毎日、彼らの姿が電車から見える。それで忘れることができずに何度も炊き出しに参加し、大学2年の時に、支援事業を立ち上げました。

 斎藤幸平さん(以下、斎藤) 僕がマルクスを研究するようになったきっかけも、炊き出しに参加して貧困の現実を間近に見たことでした。18歳で米国に留学したのですが、あちらでも生活が困難な人たちに食事を提供するスープキッチンと呼ばれる支援活動があって、炊き出しに参加したのです。世界一の経済大国で、食事も取れない人たちが大勢いることに初めて気づき、がくぜんとしました。学内でもよく見れば、清掃や食堂の仕事などは黒人やヒスパニック、アジア系ばかり。白人の先生と学生が多い授業では、平等や多様性などリベラルな価値観が議論されているけれど、現実の社会には深刻な格差、人種差別がありました。どうしてひどい不平等が生まれるのだろう。もっと知りたいと思ってマルクスの世界に入っていきました。

 -どうやって川口さんの活動は広がったのですか。

 川口 衝撃的だったのが、大阪市内だけで路上で凍死や餓死する人が2000年当時年間213人いたという数字でした。その頃の私は発展途上国の問題に興味があったのですが、日本でも飢餓がある事実にショックを受けました。それで、日本の貧困問題を考えるために、ホームレス研究が進んでいる大阪市立大に進学して2年生で立ち上げたのが「ホームドア」です。最初は路上からでも働ける仕事をつくろうと、ホームレスの人たちの自転車修理技術に着目しました。ホームレスの人たちが缶集めする時のマストアイテムが自転車。でもそんなに稼ぎはないので自ら修繕されている。その中で培われた技術を生かせる新規ビジネスはないかと、10年前にシェアサイクル「ハブチャリ」を始めました。今、シェアサイクル自体は大阪市内300拠点に広がり、ドコモ・バイクシェアと協働しています。18部屋の個室を擁するシェルター施設「アンドセンター」や食堂「おかえりキッチン」を大阪市内で運営し、居宅移行のサポートをしています。20年度には、1100人の新規相談者が訪れました。

 -斎藤さんは川口さんの活動のどこに注目を?

 斎藤 社会の偏見のせいでホームレス問題は周辺化されがち。そこに正面から取り組むソーシャルビジネスに感銘を受けています。シェアサイクルを事業化して収益を支援につなげた点も重要ですが、利用者にホームレス問題に自然と関心を持ってもらえるやり方も画期的です。

 川口 ホームレスに陥っている人たちの雇用創出になるビジネスを検討した時、市場に需要があるものの方が事業収益を生み出せて支援につながっていくんじゃないかなと。最初からホームレス支援を打ち出した商品やサービスは考えず、その商品だけで成長できるものから着想を得たいところはありました。

 斎藤 事業を立ち上げた時は大変だったのでは? いきなり「自転車を置かせて」と地域の人や企業に頼んでも「なんだおまえは」となる。相当熱意がないとできないですよね。

 川口 でも実は私は低エネルギー派。細く長く。熱意を持ってワーっとやるとスタミナ切れになってしまうので、省エネでコツコツやっていくタイプなんです。

 -「体験すること」が大事ですね。

 川口 (ホームレスの人に弁当を配って回る)夜回りを毎月やっているのですけど、ボランティアを募集するとすごい人気。倍率が多い時だと4倍以上になります。意外と関心を持っている人は多い。私が炊き出しに参加した頃とは違って情報伝達手段は発達しているわけで、SNS(会員制交流サイト)などで情報を見かけたら、気軽に参加してもらいたいですね。

社会問題について話すのが大変な学生たち
余裕が生まれるのを待っていられない 

 -日本の若者の現状はどうでしょうか。

 斎藤 今、世界では若者が「社会主義」を掲げ、デモやストライキなどの抗議活動を展開するようになっています。格差の放置や環境破壊を批判するのが普通なんです。一方、日本では小学生の時から暗記してテスト問題を解くだけという生活。批判的な検討をしたり議論したりする教育は他国に比べて少なく、自分と違う意見とぶつかり合う経験が希薄です。僕はゼミで、気候変動対策として自動車・飛行機移動や肉食制限の是非の議論をさせるんですけど、やはり学生同士ぶつかることを避ける傾向があり、ディスカッションが盛り上がらない。「政治的な意見を公の場で表明していい。むしろすべきだ」という感覚が根付いていない。そういう雰囲気の中で社会問題について話をするのは大変。川口さんはどうでしたか?

 川口 学生時代、周りには社会問題に関心がある人が少なかったので、ホームレス問題を伝えても共感を得られない。「自己責任でしょ」の一言で片付けられてしまうことはありました。自分から遠い世界のことは、人ごとに感じてしまうんですよね。

 斎藤 日本の学生たちが社会問題に関心を持たない理由のもう一つが「時間がない」ことです。具体的には、長時間のアルバイトを強いられている学生が多い。お金に縛られて自由がないのです。

 -学生に自由がない?

 斎藤 親世代の雇用が不安定化し、困窮化したせいで十分な仕送りもないわけです。学生自らがバイトで生活費を稼ぎ、授業料を払うことも珍しくありません。授業のない時間はすべてバイトに費やし、好きなこと、関心のあることに時間を使う自由がなくなってしまった。炊き出しに行ってみようと呼びかけてみても、みんなバイトで忙しく、仲間を募っていくことなんて難しい。奨学金という名の高利子ローンを借りている学生も多く、早く卒業して正社員になってローンを返済することが至上命令。他人の苦しみに関心を払う余裕などなく、若い時から生き残りのために奮闘させられている。

 -日本社会の格差の拡大が他者に目を向けることを阻害しているのですね。

 斎藤 「親ガチャ」という言葉がはやりましたが、家庭の経済状況でどんな教育を受けられるかが決まってしまう。塾や予備校にお金をかけることが競争の前提条件です。それでも、受験や就職で失敗すれば「あんなに投資したのに」と親に言われてしまう。毒親から離れようとしても、1人暮らしはお金がかかるのでできない。若者こそが貧困の被害者です。他者に関心を持ち、苦しいことがあれば声を上げたり、社会運動に参加したりできるようにするためにも、教育無償化や家賃補助などの政策が必須です。

 同世代の川口さんは周りをどうご覧になっていますか?

 川口 ホームドアの活動を続けるうちに、社会問題に関心が高い学生が集まるようになりました。活動を始めるまでは、ホームレス問題に関心がある子が周りに少なくて悲しい思いをしてきたことを考えると、若い世代も変わってきていることを実感します。とはいえ、それは限られている人たちなのかもしれません。例えば、幼なじみと話をするとずっとアイドルの話ばかり。同類は同類で集まってしまい、思考が偏ってしまう。だからこそ、私にとっては幼なじみとアイドルの話をすることも重要なのですが。

 -時間的余裕がないと社会を意識するのは難しい?

 川口 確かに余裕がないと何もできない面もあるけれど、余裕が生まれるのを待ってなんかいられない。それぐらい気候変動も深刻な状況にあるわけで、「みんな時間を持て余しているよね、じゃあ社会課題解決に向けて頑張ろう」となる日まで何もしないわけにはいかない。みんな忙しいけど、それでもやらないといけないところまで、気候変動は進んでいます。誰かがやってくれると言い訳もしがちです。だからこそ、問題を知った人がそれで終わらせない、知ったからには何ができるだろうと考え続けることも重要ですし、既にアクションを起こしている私たちも、より多くの人を活動に巻き込めるように参加しやすい仕組みを作っていきたいです。

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  • 2022年1月20日(木) 〜 2022年1月26日(水)
  • ギャラリーやすこうち

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