【傾聴記】認知症徘徊事故に賠償命令 社会で見守る態勢 急務

認知症の男性が電車にはねられ死亡したJR共和駅=愛知県大府市 拡大

認知症の男性が電車にはねられ死亡したJR共和駅=愛知県大府市

 認知症の人の介護の在り方を考えると、時代の流れに逆行した判決だった。

 名古屋高裁が4月24日、電車にはねられ死亡した認知症の91歳男性の遺族に、JR東海への振り替え輸送代など損害賠償359万円の支払いを命じた。昨年の一審判決から減額したものの、認知症の人を介護する家族の責任を重く認めたことに変わりない。

 事故は2007年、愛知県大府市で発生した。当時、認知症が進んだ男性は要介護4で、要介護1の妻(91)と2人暮らし。横浜市に住む長男の妻が男性の自宅近くに移り住み、手分けして在宅介護をしていた。男性はデイサービスから帰宅した夕方、長男の妻が屋外で片付けをし、自分の妻がまどろんだ間に外に出て徘徊(はいかい)中に事故に遭った。

 判決などによれば、電車事故の前にも2回、男性は徘徊で保護され、家族は自宅玄関にセンサーを設置したり、警察に連絡先を伝えたりしていた。また、男性が外出したがった際は長男の妻が付き添い、気が済むまで一緒に歩くこともあったという。

 それでも、一審は「民間のホームヘルパーを依頼するなど、在宅介護に支障がないよう対策を取るべきだった」と指摘した。二審は別居の長男の責任は認めなかったが、同居の妻について「監督義務者の地位にあり、行動把握の必要があった」と断じた。

 「認知症の人と家族の会」(京都市)は「判決は認知症の人の実態をまったく理解していない」などの見解を発表した。認知症の人が起こした被害については、公的な賠償制度の検討を提案している。

 認知症の人の介護現場を取材していれば、家族など介護者の負担は甚大で、24時間の「行動把握」が不可能なことは歴然としている。今回の判決のように家族の責任を重くみるなら、徘徊を防ぐため「柱にくくりつけるか、鍵のかかる部屋に閉じ込めるしかない」(家族の会)状況に陥りかねない。

 一方、JR九州や西日本鉄道(いずれも福岡市)は「原則、列車事故の損害賠償は請求する。認知症の人かどうかの把握は難しく、個別の事案で対応を検討している」との立場を取る。厚生労働省の推計(10年)では、65歳以上の約7人に1人が認知症。愛知県のケースは人ごとでは済まされない。

 福岡市は昨年12月から、認知症などで徘徊する高齢者の捜索を市民に呼び掛ける「徘徊高齢者捜してメール」を始動した。4月14日現在、協力者として2793人、571事業所が登録。8件を配信し、いずれも無事に保護できた。市地域包括ケア推進課の佐藤文子課長は「認知症への理解を深め、接し方を広く知ってもらうことが重要」と語る。

 「安心して徘徊できる町」を掲げる福岡県大牟田市は、認知症の人を地域で見守る取り組みの先進地であり、徘徊をやめさせるのではなく、家族以外への理解と協力を広げている。市認知症ライフサポート研究会代表の大谷るみ子さん(56)は「大牟田でもリスクをはらみながら取り組んできた。専門職をはじめ、認知症の人に関わる全員が自分に何ができるか考えてほしい」と訴える。

 国は、認知症の人が住み慣れた自宅や地域で過ごせる社会づくりをうたう。この訴訟を機に、在宅介護を萎縮させるのではなく、社会全体で見守る態勢構築を急ぐきっかけにしたい。


=2014/05/01付 西日本新聞朝刊=

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