特養待機52万4千人 在宅介護充実の動きあるが 専門職の育成不可欠

 特別養護老人ホーム(特養)への入所を待っている高齢者が全国で約52万4千人に上る。高齢者の増加に施設整備が追いつかない現状が浮き彫りになった。2015年4月から原則要介護3以上となり、入りたくても入れない人はさらに増える見通しだ。今、入所を待つ高齢者や家族はどう過ごしているのだろうか。

 福岡市の女性(77)が、認知症の母(107)の特養入所を切望するようになったのは約半年前。8年前から近くの特養に申し込んでいたが「まだ自宅で頑張れる」と余裕があった。

 母は要介護5。深夜に「火事よー。早く逃げよう」などと騒ぎ、何度も起こされる。ベッドから居間までの移動の介助も老いた体にこたえる。「心身ともに疲れてきた。母にきつく当たる自分が怖い」と話す。

 現在、デイサービスと訪問看護を各週2回、月2回のショートステイを利用しながら順番を待つ。見守るケアマネジャーも「そろそろ限界。なるべく早く入所させたい」。女性は「今年いっぱいは何とか頑張ろう」と力を振り絞る。

 厚生労働省の調査では、在宅で入所を待つ人は全国に約26万人。都市部ほど待機者は多い。

 ただ、特養側には「52万人という数字をうのみにできない」との声も根強い。順番が来ても「もう少し家で過ごさせたい」「今の施設(有料老人ホームなど)で落ち着いている」などと断る人も少なくない。

 将来への不安からとりあえず入所を申し込む人が多いのが現状で、介護放棄や虐待の疑いがあったり、介護者がいなかったりする「真に入所が必要な人は申込者の1割強」という調査結果(11年、医療経済研究機構)もある。

 九州の老人福祉施設協議会会長の原嘉伸さん(76)は「52万人の1割としても約5万人の待機は深刻。10年後には特養はさらに不足する」と指摘しつつも「施設の定員を増やしたくても、働く人材が圧倒的に不足している」と嘆く。

 そこで、在宅介護支援の充実が急がれる。大分県中津市で特養などを運営する中津総合ケアセンターいずみの園は「自宅で特養と同じサービスを提供する」ことに力を入れる。

 11年、24時間の見守りと1日複数回の短時間訪問を組み合わせた「定期巡回・随時対応サービス」を開始した。現在、平均83歳の45人が登録。大半が独居や高齢夫婦世帯だ。

 市内の橋本ミチ子さん(91)=要介護3=は、このサービスを使って1人暮らしを続けている。朝昼夕夜の1日原則4回、ヘルパーが家を訪れ、各30分程度で食事介助や服薬管理、洗濯などの生活支援を担う。

 ベッドのそばには24時間、いずみの園コールセンターにつながるテレビ電話と緊急ボタンを設置。連絡を受け、必要があればヘルパーがいつでも駆け付ける。実は橋本さんも、1年前に特養入所を申し込んだ待機者だが、奈良市に住む長女の遠藤祥子さん(66)は「現在のサービスが使えれば安心。母の希望通り、できる限り自宅で過ごさせたい」と望む。

 しかし、制度が普及しているとは言い難い。導入から2年で、サービスを提供する事業所は全国約400カ所(14年2月)。いずみの園訪問介護課長の山本さつきさん(59)は「在宅支援として非常に優れていると思うが、判断力と介護力に優れた専門職の育成と、家族や地域などの協力が不可欠」と訴えている。


=2014/05/08付 西日本新聞朝刊=

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