【こんにちは!あかちゃん 第17部】おなかの命は… 中絶を考える<2>経済的な支援があれば

基金箱をつくるNPO法人「円ブリオ基金センター」の活動団体メンバー。病院や美容院などに設置して協力を呼び掛けている 拡大

基金箱をつくるNPO法人「円ブリオ基金センター」の活動団体メンバー。病院や美容院などに設置して協力を呼び掛けている

 初めはためらった。佐賀県で暮らす綾さん(34)=仮名=が妊娠に気付いたのは、彼と別れた後。やり直すのは難しい。ひとり親の収入で育てられるだろうか。父親のいない子が世間からどんな目で見られるだろうか。

 それでも、産もう。実は10代後半で中絶した経験がある。あのころは若すぎて、経済力は皆無だった。今なら介護の仕事がある。30代、わが子を抱ける最後の機会かもしれない。

 ところが、ピンチはすぐに訪れた。つわりがひどく、妊娠中に仕事を辞めざるをえなくなった。小規模の事業所で1人が休めば即、業務が滞ってしまう。迷惑はかけられなかった。

 救いになったのは家族の存在だった。最初は世間体を気にして反対した母親は、おなかが膨らんできた娘を心配し、さっぱり味の食事を作ってくれた。姉妹もお下がりの服を準備し、出産の際には分娩(ぶんべん)室の前で今か今かと待っていてくれた。

 あれから2年、息子は元気に育っている。自身も産後、飲食店で働き始めた。ただ、月10万円ほどの手取りでは厳しく、実家に住まわせてもらっている。それも息子にとっては、ひとり親の寂しさを感じなくていいのかもしれない。

 「家族が味方になってくれたおかげで産めました。ただ、ひとり親で働きながら子育てをするのは、やっぱり大変。妊娠、出産にかかわらず働きやすい職場が増えてほしいのですが…」

 5日後に中絶手術を控えた2年前のある日、長崎県の主婦、聡子さん(36)=仮名=はショッピングセンターでもらったフリーペーパーの記事にくぎ付けになった。

 「出産費の支援」とある。問い合わせ先のNPO法人「円ブリオ基金センター」(東京)の支部にすぐ電話した。説明を受け、受話器を持ったまま中絶しない決断をする。「おめでとうございます」。妊娠して以来、初めて受けた祝福の言葉だった。

 既に子どもが4人いる。ちょうどそのころ、夫の勤める会社の業績が悪化。夫がアルバイトを掛け持ちしないと生活が立ち行かなくなっていた。公的な出産一時金や妊婦健診費用の助成があるとはいえ、一定額を超えれば自己負担が生じる。周囲からは「今度は難しいんじゃない?」と言われていた。

 出産後も、服はお下がりが使えても、ミルクやおむつは新たに買わなければならない。多子世帯の負担軽減策として、児童手当が第3子以降は5千円増額(3歳~小学校修了)されるが、十分とはいえない。

 「私も働かなければと思うけれど、子育て中だと雇ってくれる会社も少ないと聞きます。経済的な理由で諦めるのは無念だったので、支援を知ってうれしかった」

 円ブリオ基金センターは、全国から集めた募金などで健診や分娩の費用、ミルク代など出産に関わる費用を支援している。支援を始めた1995年から現在までに430人以上のあかちゃんの誕生を支えてきた。

 聡子さんも、未婚で出産した綾さんも約10万円の援助を受けたことで光が見えた。それでも出産後の暮らしぶりは楽ではない。円ブリオ基金センターで理事を務める佐賀市の林田紀子さん(52)は、こう指摘する。

 「経済的な支援があれば救える命がたくさんあります。非婚や多子世帯も含めて、誰もが出産や子育てがしやすいよう、社会の支援制度を拡充していかなくては」

 ◇円ブリオ基金センター=(0120)708852(火曜と木曜の午前10時~午後4時)

 ●メモ=非婚3割、経済的不安2割

 一般社団法人「日本家族計画協会」が2012年に実施した意識調査によると、中絶を決めた男女の理由は「相手と結婚していない」が30.2%で最も多く、続いて「経済的な余裕がない」が19.5%、「相手との将来が描けない」が9.4%。「仕事、学業を中断したくない」は6.9%でキャリアを心配する声もあった。「これ以上、子どもはほしくない」は6.3%だった。調査には16~49歳の男女約1300人が回答。中絶をしたことがある女性は14.7%で、このうち36.3%が2回以上経験していた。


=2014/05/14付 西日本新聞朝刊=

PR

PR

注目のテーマ