【こんにちは!あかちゃん 第17部】おなかの命は… 中絶を考える<5>葛藤の共有 医療現場も

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「泣いて笑って」に寄せられる体験を読む藤本佳代子さん

 幸せのさなかにある妊娠中に突然、母体の危険を告げられたら…。胎児の命に関わる深刻な状況が訪れたら…。そうした場面に直面した上での「決断」もある。

 長崎県大村市の藤本佳代子さん(42)は26歳のとき、初めて子どもを授かった。だが、妊娠22週を目前にして、細菌感染による前期破水に見舞われる。母体保護法に基づいて中絶できる時期は「妊娠22週未満」とされている。

 医師は即座に中絶の選択肢を示した。あかちゃんの肺が成熟せず、生まれても呼吸ができずに亡くなる可能性が高い。母体の状態も悪く、子宮摘出など深刻な状態になる恐れがある-との説明だった。

 「治療できると思っていたので頭が真っ白になりました」。しかし、立ち止まっている時間はなかった。「22週」まで数日しかない。あかちゃんがきついのなら、早く神様の元に返してあげた方がいいのではないか。万が一、助かることもあるのだろうか。苦しんで悩んで「諦める」という決断をした。

 中絶手術を終え、わが子を抱いた。420グラム。頭には産毛、手には小さい爪もあった。でも体は冷たかった。ずっしりと感じた重さは、今も腕に残っている。

 あの決断は正しかったのだろうか。6年たち、子どもに恵まれ、幸せな日々を過ごしていても、ときどきふさぎ込んだ。

 「自分の決断ともう一度、向き合わないといけない」。そうしてホームページ「泣いて笑って」を開設することにした。個人的な“日記”のようなつもりで自身の体験をつづり、心を整理しようと思った。

 反響は予想外に大きかった。メールが次々に届く。今まさに選択を迫られている人、妊娠を継続して死産になった人…。「抱え込んでいる人が、こんなにたくさんいるんだ」。とても1人では対応できなくなり、会員制の掲示板を設けた。抱える葛藤の中身は違っても、体験や思いを共有することで「苦しいのは自分だけではない」と支え合える。現在、登録会員は千人ほどに広がっている。

 中でも多かったのが、医療現場でつらい思いをしたという声だった。「あかちゃんとゆっくりお別れしたかった」「先生は忙しそうで、詳しく話を聞けなかった」「次があるよ、など不用意な発言に傷ついた」…。

 藤本さん自身も「あのとき、もっと情報を伝えてくれていたら、数時間だけの命だったとしても産む選択肢もあったかもしれない」と振り返る。こうした思いを医療従事者の研修会などで伝える活動も続けている。

 「医療者も当事者に寄り添うため、学びを続けなければ」。福岡県内の総合病院に勤める助産師(32)は出産を手助けする仕事の傍ら、中絶や死産に直面した妊婦へのケアについて学ぶ研修会にも参加している。

 助産師になって10年。母体の危険やあかちゃんの重い病気で中絶の決断を強いられたケースに何度も立ち会ってきた。以前に比べれば、産科の現場が当事者の気持ちを尊重する方向へ改善されてきているとは感じている。それでも慢性的な人手不足で業務に追われ、丁寧な対応が難しい産婦人科もあるという。

 以前、こんなことがあったそうだ。出産を諦めた女性に「抱っこしますか」と声を掛けた。「この子のお兄ちゃんたちにも会わせたい」との希望があり、しばらく家族で静かな時を過ごしてもらった。「いい時間でした」と言ってもらえた-。

 藤本さんは「医療者の言葉掛け次第で、気持ちが救われることも、悲しみに打ちひしがれることもある。つらい決断を迫られているときだからこそ、支えてもらえれば」と訴える。


=2014/05/23付 西日本新聞朝刊=

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