【働くカタチ】配偶者控除見直しを考える<下>「最低保障」の理念守れ 育児・介護の社会化必要

西南学院大法学部講師(税法)倉見智亮さん 拡大

西南学院大法学部講師(税法)倉見智亮さん

九州大大学院准教授(家族社会学)山下亜紀子さん

 配偶者控除を見直すことは、働き方の選択肢を増やして豊かな生活を送ることにつながるのか。西南学院大法学部講師の倉見智亮さん(税法)と、九州大大学院准教授の山下亜紀子さん(家族社会学)に聞いた。

 ●「最低保障」の理念守れ 西南学院大法学部講師(税法) 倉見智亮さん

 所得税法は、扶養する子どもの数や高齢者がいるなど「人的事情」に配慮するため、14種類の控除を認めている。その一つである配偶者控除には「専業主婦世帯やパートタイマーへの優遇だ」との批判もある。

 現実には、育児や介護があって働きたくても働けない主婦も少なくない。「女性の社会進出」という号令の下、セーフティーネットとしての一面を持つ配偶者控除の安易な廃止は許されない。

 そもそも、無収入の専業主婦や低所得の主婦に最低限度の生活を保障するための費用を夫の課税所得から控除しようというのが、1961年に配偶者控除制度を導入した際の基本理念だった。夫が所得を獲得するために、妻が家事労働を通じた多大な貢献をしたことに対する配慮の表れでもあるのだ。

 もちろん、妻が家事、育児、介護の全てを担い、夫に養われるという夫婦観は徐々に薄れつつある。ただ現状として、男女を問わず社会に積極的に進出できる基盤は十分に整備されているとはいえない。男女が共に安心して働ける環
境を整えないまま配偶者控除のみをやり玉に挙げるのはおかしい。

 配偶者控除・配偶者特別控除の廃止によって生じる税収約6300億円を、子育て支援などの社会保障費に充てる手もある。ただ、法人税引き下げの議論と並行して検討されていることを注意しないといけない。

 企業減税を埋めるための財源確保の手段とされないか。女性の社会進出に名を借りただけの増税になるのは避けなければならない。

 ●育児・介護の社会化必要 九州大大学院准教授(家族社会学) 山下亜紀子さん

 専業主婦が育児や介護を担うことを前提とする配偶者控除は、制度自体が女性の生き方や家族のあり方を水路づけてきた。女性が活躍できる社会を目指すなら控除はなくすべきで、その際は必ず「育児や介護の社会化」とセットで進めなくてはならない。

 専業主婦は保守層がいうような伝統的な存在ではなく、高度経済成長期以降に定着した。1970年代の石油ショックで経済が低迷し、社会保障の財源が乏しくなったため、国は家族に頼る「日本型福祉社会」をつくった。女性に家にとどまってもらい、国民年金の第3号被保険者制度や配偶者控除で優遇した。従って制度だけなくし、育児や介護を社会全体で支える仕組みをつくらなければ、困る家庭がたくさん出てくる。

 それでも早く廃止した方がいいと思うのは、制度がわれわれの価値観に大きく影響するからだ。

 例えば、2000年度に始まった介護保険制度は、介護の社会化を大きく前進させた。親を高齢者施設に預けるなど、福祉の恩恵を受けることはかつて「恥ずかしい」「かわいそう」と思われていた。今は病院に通うような感覚でデイサービスを利用できる。制度の変化が人々の意識や規範を変えてきたのだ。

 政府は控除廃止により、安い労働力の確保を狙っているように見える。誰もが働き方や家族のあり方を自由に選択でき、みんなで育児や介護を支える社会こそ目指してほしい。


=2014/05/30付 西日本新聞朝刊=

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