【参院選コラム】夏の選挙から熱気を奪うものは

 第26回参院選が22日公示された。現時点では岸田文雄首相率いる自民党が優位との見方が大勢だ。しかし「何が評価されているのか」という問いの答えは定まらない。「ウクライナ危機を前に変化を避けたい心理がある」「野党がだらしない」。聞こえてくるのは消極的選択で、国の在り方を選択する民意のうねりはない。夏の決戦から熱気を奪っているものは何か。安定と無難を志向する岸田政権の政策につかみどころがない点が指摘されている。

 ▽「無策無敵」

 6月の終盤国会の衆院予算委員会で、岸田首相が珍しく気色ばんだ場面があった。「無策無敵の内閣」と日本維新の会の馬場伸幸共同代表からやゆされた時だ。「無策無敵」とは何か。馬場氏は「具体策をやっていないから敵もない。いいも悪いもないという意味だ」と解説した。実はこうした岸田評が永田町の一部で広まっていた。

 答弁に立った首相は「具体的な結果を出しています、と申し上げなければならない」と前置きして、新型コロナウイルス対策や、ウクライナ侵攻を受けた対ロシア外交の転換を挙げて「政権の成果」と反論した。

 同じ予算委で立憲民主党の山岸一生衆院議員は首相の言葉遣いにかみついた。今年1~3月に岸田首相が国会で「検討」と発した回数は204回に上り、前年の菅義偉前首相の126回、2年前の安倍晋三元首相143回を大きく上回ったと指摘。そして「『決断』の言葉の回数は岸田首相が7回と最も少ない」とただした。

 これに対し、岸田首相は「決断という言葉を何回使ったかと、決断を何回したかは別物だ。絶えず決断を続けてきた」と語気を強めた。

 ▽「無難政治」

 その後に発表された自民党の参院選公約のキャッチフレーズは「決断と実行。」就任時の「聞く力」とはかけ離れた内容となった。官邸関係者は「首相は『無策』との批判を非常に気にしている」と明かす。実は日本維新の会は「決断そして実行」と題した公約を準備していたが、「自民に先を越された」(維新関係者)として急きょ変更した。

 岸田首相の基本政策は「新しい資本主義」や「デジタル田園都市国家構想」「新時代リアリズム外交」と独自のネーミングが付く。だが、お題目先行となっているのは否定しがたい。ある閣僚に「曖昧ではないか」と聞くと「たしかに少し具体的にしていく必要がある」とあっさり認めた。

 その閣僚は同時に「政治というものは人々の頭の片隅にあればいいということだ」と首相の内心を代弁した。「安倍1強」「菅一存」といったリーダシップを前面に出す政治と一線を画した「無難政治」を擁護してみせたわけだ。

 首相は国会閉幕に合わせた15日の記者会見で、物価対策強化や防衛費増、旅行割引「県民割」拡大などを打ち出した。ここでも財源を問われると「政策の特徴に合わせて考えていく」と述べるにとどまった。

 岸田派は党内第4派閥で、党内基盤が盤石でない点も作用しているとみられる。ただ、波風を嫌う無難政治に党内の不満もくすぶる。石破茂元幹事長は街頭演説でこう呼びかけた。「人口減少にどう向かうか。資本主義をどうやって変えていくか。安全保障をどういうふうに立て直すか。単に勝ちさえすればそれでいい、というものだと私は思いません。何を訴えるか、が問われている」。石破氏周辺に含意を聞くと「無難と安定は違う。政治の安定には実行が必要だ。無策無敵がいつまでも続くとは限らない」と解説した。

 投開票日まで2週間あまり。首相の政治目標は「安定」なのか「無難」なのか。そして、日本の経済力再生や人口減少、台湾有事対応など日本の難題をどのような実行力で解決しようとしているのか、目を凝らす機会が来た。岸田政権の中間評価でもある選挙戦は始まったばかりだ。(共同通信ニュースセンター整理部長・前政治部副部長=杉田雄心)

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