駅前植樹帯で野菜栽培、あり? 名古屋市は撤去求めたものの…

 「JR名古屋駅前で野菜が栽培されている」。中日新聞の双方向報道「Your Scoop(ユースク)~みんなの取材班」に驚きの投稿が寄せられた。一体、誰がどんな理由で? 真相を探るべく、投稿者で名古屋市在住の学習塾講師の女性(60)と一緒に現場に向かった。(中日新聞名古屋本社・成田嵩憲)

 JRセントラルタワーズなどの高層ビル群に囲まれた名古屋駅桜通口前のロータリー。投稿者の女性は昨夏、客待ちのタクシーが並ぶ市道脇の植樹帯の一角で、「野菜畑」を見つけた。広さ10平方メートルほどの区画にはナスやミニトマトが植えられていた。「コロナ禍でうつむきがちに歩いていたからこそ、見つけられたのかも。日に日に大きくなる野菜に心癒やされた」と振り返った。

 女性から投稿が寄せられたのは昨年末。取材班は栽培している人物の手掛かりを求め何度か聞き込みをしたが、「近くに住む年配の男性らしい」という情報以外に有益な情報を得られなかった。だが、半年がたとうとした5月中旬、たまたま現場を通りかかった女性が作業中の男性(73)を見かけた。

 取材すると、男性は1キロほど離れた自宅から通っていた。元々愛知県内の実家で農家をしていたが、30代前半に名古屋へ。建設作業員として働き始めたが、「野菜を育てる楽しみを忘れられなかった」という。

 目に留まったのが、手入れが滞り雑草が生い茂っていた植樹帯だった。「環境美化になる」とも考え、程なく自宅近くの植樹帯で季節の野菜を育てるようになったという。「ダイコンやシュンギクの花はそこらの花よりきれいだよ」「大玉のスイカが盗まれたことはあるけど、自分で食べたり、売ったりしたことはない」と熱弁した。

 名古屋駅前での栽培は2年前の春から。新型コロナウイルスの流行が本格化し「心の癒やしになれば」と、東海地方随一の一等地を選んだ。野菜に水やりをしていると、通行人やタクシー運転手らに声を掛けられることもあったという。「こんな場所で」と驚かれたほか、時に「感動した」との感想も寄せられた。

 ただ、男性にはずっと気がかりがあった。植樹帯を管理する市の許可を得ていないことだ。そこで記者は6月2日、男性の理解を得て、市中村土木事務所に一連の経緯を伝えた。

 市は「野菜畑」の存在を知らなかった。対応した維持第二係の新美芳和係長は困惑しつつ「撤去してもらわないと」。無許可での栽培は道路法に抵触する恐れがあるという。

 男性に取材の結果を伝えると「善意でも駄目なのか」と肩を落とした。「ルールを守っていなかったことは申し訳ない。でも草も抜いてごみも拾ってきれいにした。喜んでくれる人もいる」。撤去するかどうかはこれから検討すると話していたが…。

識者「一等地の野菜畑…面白い」

 そもそも、植樹帯での野菜の栽培は手続きを踏めば可能なのか。名古屋市中村土木事務所は難しいとの立場だが、「検討の余地はある」と指摘する有識者もいる。

 植樹帯は一般的に歩道脇の街路樹などが植えられた一帯を指す。市道の場合、原則として市が栽培する樹木や花の種類を決め、住民団体などに管理を委ねる場合は事前に協議を行う。

 中村土木事務所の新美係長に、植樹帯に野菜を植えることができるかどうか尋ねると「花は観賞して楽しんでもらう性質が強いが、野菜は収穫物に価値が出てしまうので好ましくない」と説明した。

 ただ、「有価物」であっても、長野県飯田市のりんご並木のように自治体が認めるケースはある。名古屋大大学院環境学研究科の宮脇勝准教授(都市景観)は「(認めるかどうかは)道路管理者次第。地域コミュニティーや地元企業と一緒にやろうとすれば野菜の栽培もできる。一等地に野菜の畑があるなんて、面白い景観じゃないですか」と話した。

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