【働くカタチ】ホワイトカラー・エグゼンプション 影響は 長時間労働を招く恐れ 働き方見直す機会にも

福岡県弁護士会の光永享央弁護士 拡大

福岡県弁護士会の光永享央弁護士

九州大大学院の遠藤雄二准教授

 政府が月内に閣議決定する「新たな成長戦略」に、労働時間の規制を見直そうと「ホワイトカラー・エグゼンプション」を盛り込もうとしている。どんな制度で、働く私たちにどんな影響があるのか。Q&Aと識者の話を通して考えてみた。

 -どんな制度ですか。

 「現在は1日8時間を超えて働くと、企業から残業代が支払われます。ただ、管理職や研究者は、労働時間にかかわらず賃金を一定にして残業代を支払わないことが認められています。この成果で評価する対象を一般の従業員にも広げようという制度です」

 -全ての労働者が対象になるのですか。

 「今のところ、そうではありません。政府の素案では(1)少なくとも年収1千万円以上(2)職務の範囲が明確で高度な職業能力。今後、厚生労働省の審議会で具体的な職種などを検討し、来年の通常国会での労働基準法改正を目指しています」

 「一方、経済界は管理職の一歩手前の中核社員層を想定しているようです。
少子高齢化で人口が減少する中、効率性と成果を求める外資系に太刀打ちできないと考えているようです」

 -以前にも導入しようという動きがありましたね。

 「第1次安倍晋三政権(2006~07年)です。その際は年収900万円以上で検討しましたが、過労死を招くという世論の反発を受けて断念しました」

 -そういう心配はなくなったのですか。

 「企業が従業員を長時間働かせた上で賃金を抑えたり、歯止めなく労働時間が長くなったりする恐れはあります。制度を適用するかは本人同意が必要という条件が設定される見通しですが、一般的に経営者の立場が強いことから同意を強制させられる懸念が拭えません。成果をどう評価するかもあいまいです」

 -年収1千万円以上が対象なら、多くの人にはあまり関係がないようですね。

 「確かに厚労省は為替ディーラーやファンドマネジャーら高度な専門職を想定しています。ただ、背景には経済界の要求と同時に、少子高齢化で生産年齢人口が急激に減少することへの政府の危機感があります。対象を拡大される可能性がゼロとはいえません。今は関係なくても、いずれ関わってくる問題だという意識も大切でしょう」

 -良い影響は?

 「夫が残業ばかりしていたら妻が働けません。時間に縛られる旧来の労働慣習が見直されることにつながれば、短時間勤務やワークシェアなど働き方が多様になり、選択肢が広がるかもしれません」

 「女性の就労拡大や男性の労働時間の短縮といった変化も期待したいところです。ただ、行き過ぎた成果主義で持ち帰りの仕事が増えては逆効果。自分の働き方を見直す意味でも議論に参加していきたいですね」

 ●最後のとりで失う

 ▼福岡県弁護士会の光永享央弁護士の話 合法的に残業代をゼロにする危険な制度だ。労働者を守る最後のとりでをなくすことになる。現状でも過労死やブラック企業の問題があるのに、ますます過労死は増えるだろう。今は対象者を限定しているが、当初は業務が限定されていた労働者派遣法も徐々に拡大された。同じような流れで対象者が拡大されていくのではないか。賃金の面だけでなく、長時間労働になって健康を損なうことにつながる恐れがある。

 ●無駄を省く方が先

 ▼九州大大学院の遠藤雄二准教授(人事労務管理)の話 制度の導入よりも先に、残業が生じないための業務効率化や見直しが求められる。参加者が多すぎる長時間の会議や頻繁な組織改革・人事異動といった無駄を生むものがたくさんあるはずだ。残業せず、休暇をきちんと取得して成長を続ける企業もあり、長時間労働が成果につながるわけではない。「残業代ゼロ」の是非ではなく、業務の無駄を省いて、働き方への意識を変えるための取り組みこそ議論されなくてはならない。


=2014/06/21付 西日本新聞朝刊=

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