身を守る力を育むには 小さな危険の体験 大切 自力で克服するまで見守って

園庭保育に取り組む園長寺田信太郎さん 拡大

園庭保育に取り組む園長寺田信太郎さん

 ●園庭保育に取り組む園長 寺田信太郎さん 
 飛んでくるボールをよけずに目を傷つけたり、転んで顔から突っ込んだりするなど、思わぬけがをする子が増えている。身を守る力をどう育むか。40年以上にわたって子どもと向きあってきた川和保育園(横浜市)の園長、寺田信太郎さんに聞いた。

 安全な保育とは、子どもを危険から遠ざけることではない。自分の力に応じた小さな危険を体験することで身を守る感覚が養われ、それがやがて大きな事故やけがを防ぐ力になるのだ。何の危険も体験しないで、それを回避、克服する知恵が身につくはずもない。

 うちの園庭にあるログハウスは、キッチンやテーブルがあり、子どもにとって魅力的な空間だ。だが、そこに行くには、2メートル以上ある切り立った石垣をよじ登らなければならない。

 簡単に登る子もいれば、滑り落ちる子もいる。何度も挑む子をじっと見ているのは、いったん断念したが諦めきれない子だ。

 ☆ ☆ 

 ロープにぶら下がって3メートルの高さから空中移動するロープウエーでも、にこにこ顔でサーッと滑る子がいる一方で、スタート台で固まって動けない子がいる。

 年長児がさっそうと遊ぶ姿に「できるようになりたい」という強い思いを膨らませた子どもたちだが、いざ挑戦するとなると「怖い」という気持ちが立ちはだかる。

 「やりたいけどできない」「やっぱり怖い。どうしよう」。葛藤し、ちゅうちょする瞬間こそ、子どもが危険を感じ、体験している貴重な時だ。遊びの中でこの感覚をじっくり味わうことが何より「危険を知る」ことになる。そんなとき大人は、じっと見守りはするが、一切手を出さない。

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 危険を察知して回避する能力は、言葉では教えられない。子どもが自ら感じる以外に知る方法はない。大切なのは、葛藤があって「それでもやりたい」と自分の意志で踏み出していくプロセスだ。

 「大丈夫か、本当にできるか」。怖さや不安を乗り越える力があるか、子どもは繰り返し自分に問うている。こんなとき大人は口を挟んではいけない。やらされるのでなく、やりたいという意志と自分の力で挑戦するところに意味がある。

 うちの園では子どもがいくら遊具に「登りたい」と泣いても、絶対に手助けしない。もちろん、登りたくない子に、無理をして登らせるようなこともしない。子どもの中に、やりたい気持ちが膨れ上がるまで、じっと待つ。

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 子どもが卒業文集にこんな言葉を書いている。

 「さいしょは のぼれないなあっていうきもちだったんだけど だんだん のぼりたいなあっていうきもちになって そしたら のぼれたんだ」

 興味さえ持てばすごい力を出す。困難を乗り越えた時の達成感は格別だ。力を信じて待てるかどうか、大人の頑張りどころだ。

 園庭には、ハンモックでお昼寝できる高さ8メートルのツリーハウスなどさまざまな遊具があるが、階段やはしごはない。遊びたいと思った子が、壁の隙間やロープを手がかりにして、自分に合ったルートを探して登るのがうちのやり方だ。

 いくら子どもでも、怖いと思えば無謀なことはしない。高いところにいるのに怖さを感じないというように、体験がなくて自分の状況が分からないのが一番危ない。危険だと思えば、子どもでも、自分から落ちるような場所には行かない。

 小さなけがを重ねることで学び、危険かどうか、自分で判断できるようになるのだ。

 ▼てらだ・しんたろう 大学中退後、両親の創設した川和保育園に。1971年から園長。子どもが育つ保育所を目指したユニークな園庭保育で知られる。共著に「子どもと親が行きたくなる園」。44年、横浜市生まれ。


=2014/07/08付 西日本新聞朝刊=

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